短編3
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口煩い男にはなりたくない、お節介な大人にもなりたくないと彼女の無茶に目を瞑っていた結果がこれだ。寝室のベッドには無茶が祟った彼女が荒い呼吸をしながら眠っている。先程、彼女から見せてもらった体温計には呆れる程の体温が表示されていた。高熱は簡単に彼女の身体から体力を奪っていく、既に無茶をする気力は奪われたのか、彼女はベッドを抜け出したりせず寝室で大人しくしている。普段だったら、無茶し過ぎだよ、と飴に全振りする態度も今日のサンジには出来そうに無かった。クソジジイと思われたって言わなくてはいけない事があるのだ。口煩い男としてお節介な大人として、そして彼女の恋人として黙っていられない。
目を覚ました彼女は枕元に置いてあるライトの灯りを頼りにサンジを探す。怠い体を横向きにして暗闇の中に手を伸ばせば、大きな手が彼女の手を掴まえる。
「体調は?」
「さっきよりはマシかしら」
「なら、良かった」
サンジの話し方に彼女は違和感を持つ、淡々とした冷たい言い方はサンジらしくない。普段だったらもっとオーバーなリアクションをしてくれる筈だ。
「なァ、自分の限界も分かんねェワケ?」
「へ……」
「大学生って楽しいよな、楽しいのはおれだって理解してるよ。でもさ、君は自分の加減も分かんねェガキなの?」
「ガキって……そんな言い方……」
そんな物言いをされた事が無い彼女は戸惑ったようにサンジの顔を見上げる。美形の真顔は怖いと言うが今のサンジの表情は正にそれだ、彼女すら寄せ付けないような冷たさがある。
「ガキで十分だろ」
ガス抜きもロクに出来ねェんじゃ大人じゃねェよ、とサンジは彼女と視線を合わせるように床に座り込む。
「だから、おれがいるんだよ」
「え?」
「君が無茶しねェように監視させてもらうよ」
無茶なんて出来ねェぐらいに押し掛けてやる、とサンジは真顔を崩して悪戯っ子のように笑う。彼女は普段通りのサンジに安心したのか目尻に涙の粒を浮かび上がらせる。
「……っ、サンジくん、こわい、やだ」
「優しさだけじゃ君は止まんねェだろ?こういう時の君は暴走機関車だ、おれっていう乗客を置いて暴走して最後にはこうやって事故を起こしてる」
まだ言い足りない気持ちではあったが、ここで怒鳴っても彼女の記憶に残るのは怒られたという恐怖心だけになってしまう、それだけでは困るのだ。
「毎回、熱出すの辛いだろ?」
「……ん」
「友達との約束も大事だよ、課題だって進級の為だ。バイトだって辞めろなんて言わねェよ」
ただ、一日何もしねェ日っつーのも時には大事だよ、ナマエちゃん、とサンジは先を歩く先輩として彼女に言い聞かせる。
「ごめんなさい、心配掛けて」
「……もう心配させねェでね」
おっさんの心臓が止まっちまうから、そう言ってサンジは彼女の額に自身の額をコツンと合わせるのだった。