短編3
name
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「自己管理も出来ねェ人間に任せる仕事はねェよ」
サンジの言い分は何も間違っていない、今の私には反論の余地すら無い。なのに、素直に引き下がる事が出来ない。それは意地であり、私なりのプライドだ。
「普段だって、ちゃんと出来てるでしょ」
少し黙ってて頂戴、とサンジの手から自身のエプロンを引ったくるように奪う。そして、キッと目尻を吊り上げてサンジを睨み付ける。普段だったらサンジはここで引き下がる、女性に強く出れないサンジは言いたい事があってもこれ以上は突っ込んでこないだろうという安心が私にはあった。
「やだね」
なのに、サンジは期待を裏切るように私の手を無理矢理引いて厨房の外に出る。振り払おうにもサンジの力が強過ぎるのか、私の身体が限界なのか、どちらにしろ手を振り払うのは難しそうだ。
「その熱で厨房に立つ気かい」
「……熱なんてないわ、それに貴方と話す事もない」
「君にはなくても、おれには山程あるよ」
サンジはニコリともせずに私の手を引く。そして、私の部屋の扉を開けるとベッドの横に立ち、私をシーツの上に押し倒す。
「今日の君は厨房にいらない。はっきり言って役立たずだ」
「……それを決めるのはあなたじゃないわ」
「周りを見る余裕すらないんだろ」
クソジジイ達だって君を心配してた、とサンジは言う。オーナーの名前を出されてしまってはそれ以上、何も言えなくなる。
「……っ」
「あー……いらねェは言い過ぎた。たださ、自分を蔑ろにするのはよくねェよ」
おれの心臓に悪い、といつものように煙草を取り出して火を付けようとしたサンジはこちらを向いてジッポと煙草を胸元にしまった。
「煙草ぐらい吸えばいいのに」
「今日は我慢するよ、君が料理を我慢するようにね」
サンジはシーツに手を着き、私の額に口付けを落とす。そして、あちィ、と苦笑いを浮かべると私の足から靴を脱がせてベッドの下に揃える。
「……さっきはごめんなさい」
「君は謝るような事してねェだろ」
「心配してくれたのに八つ当たりしたもの……」
私は顔を隠すように自身の腕を顔に持っていく。冷静になって考えてみれば、あの態度は褒められたものじゃない。サンジは私に毛布を掛けながら、ふわりと穏やかな笑みを浮かべる。
「おれの心配が伝わって良かった」
「……それ以外でサンジは怒らないもの」
「はは、だって君はいい子だから」
こういう時ぐらいだよ、おれが怒れるのなんて、そう言ってサンジは私の頭を撫でる。
「だから、今日はちゃんと休むんだよ」
「……明日は厨房に立っていい?」
「熱が下がったらね」
「……つれないわね」
寝返りを打って、サンジに背を向ける。そうすれば、サンジは私の顔を覗き込むように身体を曲げて、少しだけ尖らした私の唇に口付けた。
「早く治るようにおまじない」
「ふふ、貴方がしたいだけでしょ」
「煙草は我慢出来るけど、君だけは我慢出来ねェの」
横暴ね、とその頬に手を添えてもう一度、私から唇を寄せる。我慢が下手なのはきっと、どちらもだ。