短編3
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「デートに行ってくるわね」
頭から足の爪先までデート仕様に着飾った彼女はサンジに声を掛ける。彼女の声に反応したサンジは書き途中のレシピノートから顔を上げて、彼女の顔に視線を向ける。そして、おっ、と何かに気付いたように声を上げる。
「この間、買った口紅かい?」
「よく分かるわね」
「君の事だからね」
君の事と冷蔵庫の材料の事は全部把握してるよ、とコックらしいジョークを口にするサンジに彼女はくすりと笑う。そして、サンジが作業しているテーブルに近付くとサンジの手元のノートを覗き込む。サンジの少し癖のある字がビッシリと並んだレシピノート。ほうほう、とわざとらしく頷く彼女にサンジはおかしそうに笑う。
「絶対ェ分かってねェだろ、それ」
「雰囲気はなんとなく。あと、美味しい事は理解してるわ」
「はは、それで充分だよ」
そう言って、サンジは彼女の綺麗に塗られた爪に触れる。そのまま、指先をするりと撫でると自然な動作で指を絡める。
「それで、デートのお相手はナミさん?ロビンちゃん?」
「あら、女の子とは言ってないわよ?」
サンジの反応を試すように彼女はそう言って、空いた手でサンジの顎をするりと撫でる。だが、サンジからは彼女が期待するような反応は返ってこなかった。
「だって、君は男と会う時はデートなんて言わねェもん」
彼女が口にするデートという言葉は同性か恋人のサンジにしか使われない。サンジに対して不義理な事はしたくないと以前から言っている彼女を疑うには信頼が厚過ぎる。
「でも、今回は本当に男の子よ」
「ルフィやウソップはノーカンだよ」
おれを巻き込むな、バカップル、とウソップの恨み言が聞こえてきそうなサンジの物言いに彼女は首を左右に振って否定する。
「マリモは論外」
「……っ、ふふ、違うわよ。それに私、まだデートに誘ってないの」
「そんなバッチリなのに?」
「断られる可能性もあるのに、って思った?」
サンジは正直にコクリと頷いた。彼女からの誘いを断る野郎も彼女から誘われる幸福な男も全て皆平等に嫌いなサンジ。だが、断られた時に彼女が悲しむのはもっと嫌だった。
「断られない自信があるのよ」
「根拠のねェ自信はよくねェよ、ナマエちゃん」
普段、彼女に対しては全肯定のサンジ。だが、今回は彼女のがっかりした沈んだ顔を見たくなくて、つい、厳しい言い方をしてしまった。
「だって、私が誘ったら死んでも来るでしょ」
サンジは、そう言って彼女は繋いだままの手をぶらぶらと揺らす。
「へ」
「そのレシピが書けたらデートしましょ?」
「……エッ、おれ?」
サンジは空いた手で自分自身の顔を指差すと、吃り混じりにそう問い掛ける。
「あなたとお出掛けするのが一番楽しいもの」
当たり前とでも言いたげに彼女はそう口にする。それがどれだけサンジの気分を上げるかだなんてきっと考えてはいないだろう。無意識というものは恐ろしいとサンジはシャツ越しに心臓を押さえる。そして、顔をへにゃりと溶かすと即座に彼女からの誘いを了承する。レシピを書く手は先程よりも急ぎ足になる、そして、もう一つの手は彼女の手を握ったままテーブルの下で揺れていた。