短編3
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「ナマエお姉様?」
「ふふ、サンジ」
彼女はふっくらとした唇をキュッと持ち上げ、妖艶な笑みを浮かべるとサンジの耳元に顔を近付けて今夜、此処にいらっしゃいと耳打ちをする。そして、サンジのわなわなと落ち着きを無くした手にホテルの鍵を握らせる。
「部屋を間違っちゃ駄目よ、ハニー」
「……は、はひ」
返事すら碌に出来なくなってしまったサンジの頬に手を添えて唇を寄せる彼女。サンジの頬には彼女の真っ赤な口紅の痕が付く。あら、いい男、と彼女はその自身の痕が付いたサンジの横顔に恍惚とした表情を向ける。
「良い女避けになりそうね」
「君がいるのに他のレディと遊んだりなんてしねェよ」
「疑ってるわけじゃないのよ」
ただ、年増の私より若い女の子を味見する方が魅力的でしょ、と彼女は言う。その顔には自信が溢れているが時々、不安が顔を出す。どう着飾っても時を戻す事は叶わない、初心なサンジを手のひらで転がしては自身への興味が薄れていない事を試す彼女はサンジに言わせれば狡い女なのだろう。自身の気持ちはオモテに出さないくせにサンジの気持ちだけを量ろうとするやり方は確かに褒められたものでは無いだろう。
「冗談よ。だから、そんな顔しないで」
本音半分、冗談半分。彼女はサンジの背中をポンと叩き、部屋から追い出す。ナマエちゃん、と言い掛けたサンジの声に聞こえないフリをして彼女は扉を閉める。そして、サンジの気配が消えるのを待って鍵を閉めた。
――――
指定された場所に着いたサンジは緊張した様子で扉をノックした。来る前にシャワーを浴びてスーツだって一式着替えた。香水も彼女好みの甘い香りを選び、まるで今夜が勝負だと言いたげなサンジに彼女はどんな顔をするのだろうか。彼女が言っていた味見なんてする時間も無ければ、する気も無いのに彼女は飽きもせずにサンジを試す。
「(……お姉様だけなのに)」
可愛い年下の恋人だと言いながら彼女の態度は本気の恋愛をしているようには見えない。のらりくらりとサンジを翻弄して試して、満足したらそれで終了。恋人というよりは彼女の可愛いお人形と言った方が正しいのかもしれない。
扉が開き、中から出て来た彼女は頬を薔薇色にして目をとろんと垂らしてサンジを見上げた。そして、ふにゃりと笑ってサンジに飛び付いた。
「サンジだぁ」
アルコールの匂いがサンジの甘い香りを掻き消していくようだ。意識はしっかりしているようだが、サンジが期待したような事は起こらなそうだ。
「ったく、困ったレディだ」
「ふふ、ごめんなさい」
彼女を抱き上げてサンジは部屋に入る。部屋のテーブルには彼女が一人で空けたビンや缶がお行儀良く並んでいる。散らかしていないだけマシか、とサンジは苦笑を浮かべながらソファに腰掛ける。
「んっ、暑い」
彼女はサンジの膝の上で自身が着ているワンピースに手を掛ける。
「ま、待って、お姉様!?」
「やだ」
どうにか彼女の生着替えを止めようとするサンジの手を払い除け、彼女は自身が着ていたワンピースをソファに投げ捨てる。そして、あろうことかブラジャー越しの胸をサンジの顔に押し付ける。えい、えい、と可愛らしい掛け声と共に顔面に当たる柔らかな二つの膨らみ。サンジは突然のサービスに手も足も出せずに固まる事しか出来ない。このまま、彼女の胸で圧死するのも悪くないかもしれないと静かに目を閉じようとするサンジに彼女の小さな声が届いた。
「……やっぱり」
不安げに揺れる彼女の声にサンジは勢い良く顔を上げると腕の中の彼女を見上げる。長い睫毛に水滴が落ち、彼女の目の下を汚す。普段のお姉様呼びを投げ捨て、サンジは彼女の名前を呼ぶ。
「ナマエちゃん」
サンジは彼女の涙を指で受け止めながら、彼女の声に耳を傾ける。アルコールで泣き上戸になるタイプではない彼女の涙の理由をただ知りたかった。
「……サンジ、抱いて」
「酔っ払いを抱く趣味はねェよ」
「うそつき、おばさんだから抱きたくないってハッキリ言えばいいじゃない」
「そんな文句を言う為に弱ェくせに酒なんて飲んだの?」
サンジはソファに彼女を押し倒すとその細い手首を彼女の頭の上で固定する。彼女は抵抗もせず、サンジにされるがままだ。
「味見して、サンジ」
甘い誘い文句は皮肉にすら聞こえる。
「おれは君の何?」
「あら、可愛い恋人よ?」
「……おれは君の味しか知らねェのに、君はすぐにおれを試す」
それで簡単に手放そうとする、そう言ってサンジは彼女の手首に回していた自身の手に力を入れる。痛がる素振りも見せない彼女は必死なサンジの表情を瞳に映しながら、眩しそうに目を細める。
「だって、私には勿体無いんだもの」
「なら、何で恋人にしたんだい」
「見た目かしら」
あっけらかんとそう答える彼女。やっぱり己は彼女にとって可愛いお人形と何ら変わりないではないか、と悔しそうに手を解くサンジ。
「……って言ったら私らしいんでしょうけど、好きになっちゃったんだから仕方ないじゃない」
「は」
「酔っ払って恥も何もかも捨てて今こうやって誘ってるのよ、私」
なのに、このまま放置なんて酷いじゃない、そう言って彼女はサンジの手を自身のブラジャーのフロントホックに導く。どこまでが計算でどこまでが本気か、この読めない彼女の手のひらの上で踊らされているサンジは今日も彼女の手のひらの上でくるくると回り、軽快なステップを踏むのだった。