短編3
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戦闘の度に己の不甲斐なさを実感する。いつか、皆の足手まといになる日が来るんじゃないかという不安を抱えたままベッドに入り、その不安が形となって夢に出てくる。バッと勢いよく身体を起こした私は自身の震える手を無理矢理押さえ付ける、力尽きた仲間の亡骸に触れた感触が右手にいつまでも残っているのだ。そして、鼻先を掠める死臭。どうやら、目覚めても地獄は終わらないようだ。
ベッドから立ち上がると自身の私物が入っている引き出しからバスタオルを取り出し、バスルームに向かう。この不快な死臭を洗い流さなきゃ、と正気じゃない頭をぐるぐると回転させながら私は雑にシャツを脱ぎ捨ててシャワーの蛇口を勢い良く捻る。肌が痛む程の冷水を頭から被り、正気を取り戻そうとしている私は既に狂っているのかもしれない。朝食までには正気に戻らなくてはいけない、と蛇口を締めて自身の冷えた頬を叩く。そして、椅子に蹲るようにして座っていればバスルームの扉がコンコンとノックされる。
「……ナマエちゃん」
サンジの声が扉越しに聞こえる。それに意識的に明るい声を出せば、扉の向こうにいるサンジの声がより不安げなものになった。きっと、サンジは私の空元気に気付いてしまったのだろう。
「ねぇ、サンジ」
「なぁに」
「……私を安心させて」
今日の夢の犠牲者はサンジだった。手に残る感触はサンジの肌に触れた感触、男にしてはきめ細やかなその白肌に血が零れたインクのように広がり、サンジの熱を奪っていった。
「……入ってもいいかい」
「えぇ」
ゆっくりと開いた扉の隙間からサンジは自身のジャケットを差し出す。濡らしていいから羽織って、と手渡されたジャケット。断っても着るまで譲ってくれなさそうなサンジの様子にくすりと小さく笑みを溢す。冷えた身体にサンジの優しさはあたたか過ぎる。私はサンジの言う通りにジャケットを羽織ると前のボタンをしめる。
「入っていいわよ」
「失礼するよ、レディ」
バスルームに入ってきたサンジは痛ましそうな表情でこちらを見る。今の私はそんなに酷い顔をしているのだろうか。
「悪い夢でも見たのかい」
「夢で恋人を亡くしたわ」
「それは悲しい思いをしたね」
「……私のせいよ、私が弱いから」
サンジの顔についた傷に触れる。現実ではただの掠り傷だよ、とサンジは穏やかな笑みを浮かべるが夢のキッカケはこの掠り傷から始まった。
「そのうち、皆の足手まといになってしまいそうだわ」
「君は強ェよ。こないだ、また額が上がったばかりだろ?」
賞金額が上がっても、上には上がいる。四皇の一味だと胡座をかいている時間も余裕も無い。
「……私なんてまだまだよ、今までは運が良かったの」
「運も実力のうちだよ、レディ」
それにおれは君のストイックさに惚れたんだ、とサンジは私の冷え切った手に触れる。
「君の頑張りを知らねェ奴なんてこの船には乗ってねェよ」
「……サンジ」
「だから、自信をちょっとだけでもいいから持って欲しいなァ」
無理だと溢してしまいそうになる私の口にサンジの手が蓋をした。
「君の美徳だ、誇っていい」
「……っ、ふふ、何であなたが自慢げなの」
「君が自慢の彼女だからだよ」
泣いているのか、笑っているのか分からない顔でサンジのシャツに顔を埋める。頭から垂れる水滴と涙が合わさって、サンジのシャツは酷い水溜りを作っている。
「頑張ってる君は素敵だ。でも、頑張れない日の君もおれは愛してるよ」
頭上から降ってくる優しい言葉の雨は冷水とは違って、包み込むように私の肩を濡らした。