短編3
name
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
年末年始特有のゆったりとした空気に馴染んだ身体は学校や仕事という日常に戻るのが億劫になる。私の場合、日常に戻りたくないわけではない。ただ、この馴染んでしまったぬくもりとお別れをするのが嫌なのだ。サンジと炬燵の間にすっぽりと収まった自身の体はこの数日間のサンジの甘やかしによって少しだけ体重を増やしたような気さえする、それを隠す為に重ねた上着はモコモコと私の動きを鈍くし、また懲りずにサンジに甘やかされるのだ。今だってサンジの腕は私の垂れ下がる袖をくるくると捲り上げて、鍋に付かないようにと子供のように面倒を見られている。
「ナマエちゃん、どれが食いてェ?」
私が指名した具材達を器に入れ、その上からダシを掛けるサンジ。そして、その器は私の手に渡ることなく、サンジの手に持たれたままだ。
「どれから食う?」
「白菜」
休みに入ってから三食、サンジのあーん付きで進められる食事。最初の二日間は勿論、私だって断わった。だが、サンジのおねだりに押し切られた私はもう断わる事を諦めてこの状況を受け入れた。別に私は口を開け、それを咀嚼するだけだ。無理難題を押し付けられたわけでもない。
「……でも、現実に戻れる気がしないわね」
「エッ、これっておれの都合のいい夢?」
「ふふ、夢じゃないわ」
夢だったらこんなお肉付いていないもの、と自虐的に自身の緩んだお腹を擦る。そうすれば、サンジはその柔らかな脂肪に手を伸ばし、ふにふにと指先で感触を楽しむように遊ばせる。擽ったさに身を攀じってもサンジの手は止まらない。
「あっ、もう意地悪しないで」
「だってさ、気にしてるの可愛いんだもん」
サンジはどうやら私の欠点を気に入っているらしい。女の子らしい身体だと言って、私のダイエットへの決心すらも緩めてしまうサンジは悪い男だ。そして、毎日三食分の誘惑が私を襲うのだ。
「……長期休みが終わる度にダイエットするの本当大変なんだからね」
「ダイエットなんてしねェでいいよ」
「デブ専はお断りよ」
「残念、君専」
それに別に細ェだろ、とサンジはダシが染みたお肉を小さく箸で切り、自身の口の中に入れた。サンジの彫刻のような引き締まった身体の横に並ぶにはあと数キロが邪魔をする。その数キロは勿論、サンジと付き合ってから順調に増えた分だ。
「今年は痩せるもの」
そんな宣言をする私を後ろから抱き締めるサンジ。君が減っちまうのは嫌だなァ、とお腹の前で組まれたサンジの手に少しだけお腹を引っ込めれば後ろから笑い声が聞こえてくる。
「っ、くく、こうやってさ、ずっと甘やかしててェな」
ぎゅっと包み込むサンジのぬくもりが私を日常からまた遠ざけようとする。私はテーブルに置いてあったスマートフォンの検索画面を開き、甘やかしの断り方、そんな馬鹿げた検索ワードを入力するのだった。