短編3
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骨ばったゴツゴツとしたサンジの手首は私の手でも持て余してしまう程に細くなった。だが、分からず屋のサンジはその体の変化を些細な変化程度にしか思っていない。数日経てば戻るだろうという楽観的な考えが透けて見えて腹が立つ。今のサンジは不思議な現象に巻き込まれた被害者だ、被害者に怒りをぶつけるなんて正しい事では無い。だが、これだけはいただけない。
「ナマエちゃん……っ、手首ちょっとだけ痛ェ」
「分からず屋のサンジには丁度いいでしょ?」
前をズカズカと歩いて行く私に手を引かれながら、サンジはこれから売られにでも行くような悲痛な顔で後ろをついて来る。怒りを買った原因に辿り着いていないサンジは私の素っ気ない言動が不安なのだろう。
「……おれ、何かしちまった?」
「レディが傷付くのが嫌って言ってた癖にサンジは嘘付きね」
ここまで言ってもサンジは答えに辿り着かない。自分自身の現状を見れば答えは簡単に出ているというのに自身を勘定に入れないサンジは身に覚えがないという顔をして私の顔を見つめている。
「……今の自分がレディだって分かってる?」
「数日後には野郎に戻るよ」
「だから、怪我してもいいって?」
サンジの頬には目立つ傷が出来ている。庇うように敵と私の間に入ってきたサンジは本来しなくていい怪我を負った。普段のサンジだったら負わなくて済んだ傷だ。だが、今のサンジは体だけ女になっている。私よりも小柄で華奢なサンジは体を上手く使いこなせていないのか、蹴りの威力は変わらないが避けたり防いだりする事が上手く出来ていない様子だった。なのに、私含めナミやロビン、レディの一大事となれば簡単に前線に飛び込んでしまうのだ。
「おれが上手く避けれなかっただけだよ」
「……あなたのそういう所が」
「嫌いはやめてくれると嬉しいな」
サンジは眉を下げて笑うと私の顔を見上げて、空いている手で私の頬を撫でる。
「性別なんて関係ねェよ、野郎でも女でも大切なものを守りたい気持ちは一緒だろ?」
「自分を勘定に入れない所が気に入らない」
「……人には優先順位があるだろ?」
おれの優先順位は君、ナミさんやロビンちゃん、レディ、うんと下に野郎がいて、その下がおれ、そう言ってサンジは指を順番に折り曲げていく。一番最初に私がいたって何も嬉しくはない。
「でも、今は自分もまとめて救ってやろうってちゃんと思ってるよ。だから、掠り傷ぐれェは許して?」
「……顔は掠り傷、右足はきっと打撲かしら?」
ビクッと揺れたサンジの肩に手を置く。嘘に目を瞑ってあげる程、私は優しくない。
「嘘は駄目よ、レディ」
よいしょ、と背中と膝の裏に腕を差し込み、サンジの軽い体を持ち上げる。
「ナマエちゃん!?」
「女の嘘は許すのが男だって言ってたけど残念、私は女だから許さないし見過ごしてもあげない」
でも、そうね、と私はわざと悩んだフリをして戸惑うサンジに視線を向け、こう口にした。
「分からせてあげる事は出来るわ」
「……な、何を」
「あなたをどれだけ大事にしてるかって分からせてあげる」
強引にでもね、と付け足した私にサンジは普段よりも随分と可愛いらしい反応を返す。コクコクと頷く健気なレディを抱いて、私はサニーまでの道を先程とは違った足取りで進むのだった。