短編3
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サンジから提案された時点で私は己の勝ちを確信していた。きっと、サンジは直ぐにその頬をだらしなく緩ませ、降参を願い出るだろう、と。だが、私の浅い考えはゲームが始まって直ぐに打ち砕かれた。
「ん、っ、愛してるよ、ナマエちゃん」
「……愛してる」
サンジから提案されたのは愛してるゲームという名の簡単なゲームだ。お互いに愛してると言い合って先に照れてしまったり笑ってしまったりした方が負けの簡単なゲーム。それに相手は恋人であるサンジだ。元々、女性全般に弱いサンジは恋人である私には一段と弱かった。普段から愛してると伝えているが、その度に世界の幸せを一身に受けたような蕩けた笑みを浮かべるサンジ。
「(……この勝負が楽勝だなんて言ったのは誰よ)」
楽勝だと思っていた数分前の己が憎い。一周目はまだ良かった、頑張って耐えて偉いじゃないと何様な立ち位置からコメントをする余裕すらあった。なのに二周目から雲行きが怪しくなってきたのだ。愛してるの間に挟まれる口付け、悪戯な指先が顔の輪郭をなぞり、耳朶に触れる。お互いの額をコツンと合わせれば、二人の距離はゼロになる。
「趣旨が違うんじゃないかしら」
「っ、くく、勝つ自信が無くなっちまったかい?」
まるでこちらを煽るようなサンジの発言。私の負けず嫌いに火をつけるのが目的なのか、目の前のサンジは挑戦的な笑みをこちらに向けている。
「負けるのはあなたよ」
「お手並み拝見といこうか」
サンジはそう言って、真っ直ぐに私に愛を伝えてくる。口付けや愛撫、そして砂糖のように甘い声。ビリッと電流が流れてくるような感覚に表情筋が仕事を始めようとするが私は寸でのところで表情筋にストップを掛ける。
「私だってあなたを愛してるわ」
愛してるゲームはきっとこんな何でもありのゲームでは無い。台詞の付け足しすらいいのか分からないが私だって簡単に負けるわけにはいかないのだ。サンジの首に腕を回して甘えるようにしなだれかかる私。そんな私を片目に映しながらサンジはゴクリと唾を飲み込む。だあいすき、とルール違反のような追い打ちを掛ければ、サンジは自身の口元を手で覆う。
「サンジの負け」
「まだ、セーフだよ。笑ってねェし」
「ふふ、早く降参しなさい」
ニヤけた口元がバレバレだとその手を剥がせば、直ぐに勝敗は出た。結果は勿論、私の想像通りだったが次の展開は私も想像していなかった。剥がした手をサンジに引き寄せられ、サンジの腕の中に収まる私。
「勝敗なんてどうでもよくて、君からの愛してるで胸をいっぱいにしたかった」
「……胸はいっぱいになった?」
「駄目だね、もっと欲張りになった」
そう言って、サンジは眉を下げて困ったように笑う。
「負けたけど、続行してェなァ、なんて……」
「次は上手におねだりしてみて」
ゲームじゃなくてね、とサンジの鼻の先をちょんと突く。二人が勝敗なんて関係ない愛してるを交換し合うのはまた別の話だ。