短編3
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コントローラーを操作しながら、ゆらゆらと揺れる身体。液晶の向こうでは私が投げた緑色の甲羅を避けるサンジ。だが、現実世界ではサンジの肩に私の高さの合わない肩が遠慮なくぶつかっている。
「当て逃げは感心しねェなァ、レディ」
そう言って、わざと私の肩に寄り掛かり重心を預けてくるサンジ。体格差のせいで私の右肩はガクンと下がり、おかしな体勢になっている。お互い画面から目を離さずに小さな潰し合いを続ける私達には相手に勝ちを譲るという考えは存在しない。女性に激甘なサンジらしくないと言われてしまうかもしれないが、今の状況は手加減を止めないサンジに私の手加減したら別れるという大人げない一言が効いた結果だ。最初からこんな本気モードだったわけではない。
「あなたこそ重いわよ」
「だって、押さえてねェとナマエちゃん妨害してくんだもん」
しかも、物理で、とサンジはくすくすと肩を揺らしながらコントローラーを操作していく。こちらでは肩をぶつけ合い、画面上では車体をガンガンとはぶつけ合いながらゴールに向かって車を走らせる私達。
「あ、もう、サンジずるいわ!」
「アイテムは運だよ」
フフンとドヤ顔をするサンジはアイテムを使用すると、君はバナナの皮でも投げてみたらいいんじゃねェかな、と煽りの一言を口にする。戦いの火花を散らしながら最終コーナーを走る私達には他のキャラクターなんて視界に入っていない。サンジは私をマークし、私はサンジの前にバナナの皮を投げる。だが、幸運の女神は私を愛してはいなかったらしい。
「っ、くく、悪ィね。一抜け」
「……一生バナナの皮を踏めばいいのに」
「そりゃ、地味にツイてねェな」
私はサンジの部屋着を掴むと人差し指を立てる。もう一戦、と勝負を申し出る私にサンジはまた意地の悪い笑みを向ける。
「次は勝った方のお願いを聞くってならいいよ」
「……例えば」
「すけべな事とか」
「だと思った」
あの悪そうな笑みの下に隠した本音なんて碌な事じゃないに決まっている。そう言い切る私の顔を覗き込みながらサンジはこう口にする。
「はっはー、勝つ自信がねェと見た」
「は?私が一位に決ってるじゃない」
へェ、と意味深な笑みを浮かべながらサンジはコースを選ぶ為にコントローラーを操作し、一番の難所を選ぶ。
「ま、余裕でおれが勝ってすけべなお願いの一つや二つや三つ叶えてもらおうかな」
「もっと遠慮して」
「遠慮して負けたら振られちまうらしいし?」
スタートラインに並び、お互いに言いたい放題な私達。スタートのブザーと一緒に飛び出した二人は画面上では車体をぶつけ合い、現実世界ではお互いの肩をぶつけ合いながらゴールを目指す。ゴールの先にある勝利を掴むのはどちらか、私はサンジのピンク色の脳内に抵抗するようにコントローラーを動かすのだった。