短編3
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島の文化に触れるのは割と好きだ。今回上陸した島では手紙で感謝や愛の言葉を伝える文化があるらしい。そのお陰かレターセットやシーリングスタンプ、万年筆といった文房具を取り扱っている店が他の島よりも多い。きっと、一味の中では私やロビンぐらいしか興味が無いだろう。航海日誌や海図を描くナミはレターセットよりも万年筆の方に興味を示すかもしれない。そして、サンジは手紙よりも口で愛を叫ぶ方が性に合っていそうだ。それに手紙なんて書き始めたら毎日数え切れない枚数の手紙を寄越して来そうだ。一枚には収まる筈の無いサンジの愛を思い返して、つい笑みが溢れた。私の書くこの恋文への返事は紙ではなくその心地の良い低音に返して欲しい、鼓膜を愛撫するようなサンジの愛に浸りたい。
買ったばかりの万年筆の尖った筆先を紙に滑らせる。紙を前にした時は何を書こう、何を伝えよう、と言葉の引き出しを開けてみたり、脳内に浮かんだサンジとの思い出を何度も思い返してみたりしたが筆先が綴った想いに寄り添えば、途切れる事なく言葉を紡ぎ出す。そして、自身の言葉に気付かされるのだ。とんでもなくこの男を愛している自分自身を知ってしまう。口では愛を払い除けてしまうが、どうやら思考はそうではないらしい。書き直すか、と一旦筆を置いたがまた思考と手が勝手にサンジへの愛を紡ぐのが目に見えている。
「なぁに、書いてるの」
背後から聞こえた声に私は飛び上がるようにして椅子から立ち上がる。そして、レターセットを手元に掻き集めて背中に隠す。
「何でもないわよ?」
「っ、くく、背中に何を隠したのかな、レディ」
サンジは私の手元から手紙を無理矢理取り上げたりはせずに会話のキャッチボールを楽しむように煙草を蒸している。
「そのうち教えてあげるわ」
「それは今日?明日?それとも、一年後かな?」
書き掛けの手紙を一番下にして私はサンジの胸ポケットからジッポを取り出す。
「おっと、火遊びでもするのかい?」
「邪魔したら貴方宛のラブレターが燃えちゃうかもしれないわね」
カチッとジッポを鳴らして、サンジを見上げれば先程の余裕そうな笑みは崩れて途端に焦ったような表情を浮かべる。
「嘘よ、冗談。ちょっとだけ火を使いたいから貸して」
「ラブレターも冗談?」
「ふふ、欲しい?」
「勿論」
それにこの島は手紙を送り合う文化があるらしいからね、とサンジは私の目の前に一枚の封筒を差し出した。淡い色をした封筒にはサンジの手書きの字で私の名が書いてある。
「これは?」
「君が背中に隠しているものと一緒」
火の使い道もね、とサンジは差し出した封筒を裏返して完全に固まった封蝋を指でなぞる。
「……分厚いわね」
「愛を語るには一枚じゃ足りねェと思わねェ?」
「私の愛は一枚で十分よ」
口は相変わらず素直じゃない。なのに、目の前のサンジは目尻を下げて愛おしげな視線をこちらに向ける。
「一言でも十分幸せなのに一枚もあるのかい?」
「……幸せな人」
嫌味のつもりだったのにサンジはこくりと頷いて、君に愛されてる時点でおれは幸せ者なの、そう言って私の手に手紙を置く。
「いい子にしてるからラブレターは燃やさねェでね」
悪戯な笑みを溢したまま、サンジは後ろ手をひらりと振って部屋を出て行く。今日中に渡せる筈だった手紙はこのままじゃ枚数が増えて渡すのは明日になってしまいそうだ。私は万年筆の筆先を再度、紙に滑らせた。線の上に並んだ自身の愛の言葉は燃えるように熱かった。