短編3
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年末の忙しい時期、社会の歯車として働いている私も例に漏れずバタバタと忙しい日々を送っている。元々そこまで器用に生きれるタイプではない私は仕事と日常を平等に熟す事が出来ない。ここで言う日常は睡眠や生きる為に必要な最低限の事を指す。そして、その中で優先順位が低いのは食事だ。最近は昼食ぐらいしか碌なものを食べていない。夕食は買う気も起きなければ作る気も起きず、食べないという選択肢を取る事が増えた。一瞬だけ口煩い幼馴染の顔が頭に浮かんだがあの男にバレたら説教プラス毎日自宅に押し掛けられるのが目に見えている、一番バレてはいけない相手だ。
「……で、黙ってたと?」
我が物顔で自宅に押し入って来たサンジは私の顔を数秒見つめ、床を指差した。次にサンジの口から出る言葉を容易に察してしまった私は流れるように床に膝をつく。正座しろ、その金髪の隙間から覗く三白眼が圧で私に訴えてくる。
「年末だし、サンジも忙しいかなぁって……」
「おれ、二日前に連絡したよね?」
飯食えてんのかって、そう言ってサンジは腕を組んだまま、私を見下ろす。あはは、と誤魔化し笑いをしたってサンジの眉間の皺を増やしてしまうだけだ。
「……説教よりも先に飯だ」
サンジは持参してきた紙袋を私の目の前に差し出す。私はそれを両手で受け取ると中身の重さに驚いてしまう。サンジが軽々と持っていたから分からなかったが中にはタッパーがギッシリと詰まってある。タッパーの蓋には一枚一枚付箋が貼ってあり料理名と期限が書いてある。
「日持ちするおかずしか入ってねェけど、なるべく早く食えよ」
空いたタッパーは紙袋に入れてドアノブにでも引っ掛けておいてくれ、とサンジは玄関を指す。
「代わりのおかず置いとくからちゃんと食えよ、社会人」
人間は身体が資本なんだぜ、とサンジは紙袋の中からタッパーを数個取り出すとキッチンに足を向ける。そして、遠慮なく冷凍庫を開けるとラップに包まれた冷凍ごはんを取り出し、レンジに掛ける。私はサンジの後ろを雛鳥のように着いて行き、手早く夕食の支度をしていくサンジの背中に抱き着いた。
「なんだ、やっと食う気になったか?」
昔からサンジはこうだ、私の至らない部分に目を吊り上げるくせに結局、最後はこうやって私をまた駄目にしていく。そして、また幼馴染の距離を曖昧にしていくのだ。
「……一家に一台必要だよ、サンジが」
「フッ、おれはクソ手が掛かる幼馴染の面倒で手一杯なんだよ」
「だから、彼女が出来ないんだよ」
「うっせェ、余計なお世話だ」
ふんわりと香ってくる料理の香りと煙草、そして香水。サンジのシャツに顔を埋めながら私はくぐもった好きを伝える。何度目か分からない告白だ、サンジの寝顔に二回、そして、シャツ越しに一回、帰りの扉越しに数え切れないほど溢した好き。今回も聞き返されて終わってしまうのだろうとサンジのシャツから顔を離せば、頭上からサンジの声が降ってくる。
「お互いに逃げんのやめねェか」
「へ……」
「……っ、だから、クソ手が掛かる彼女にしてやってもいいって言ってんだよ」
幼馴染から昇進だ、良かったな、と乱暴な手付きで私の頭を撫でるサンジ。散らかった前髪の隙間から見えたサンジの表情は相変わらず素直じゃない。だが、その耳朶の赤だけは素直に感情を伝えていた。