短編3
name
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
忘れられない恋から目を背けて、変わっていく私を視界に入れて欲しいと思うのは傲慢だろうか。姿形も知らない相手を真似て、その座を狙う私にサンジは良い顔をしない。直接、言われたわけではないが私に向ける視線がそう物語っている。私は鈍いフリをして、己の顔に派手な紅を差す。地味とまではいかないが華やかとも言えない私の顔、不釣り合いな浮いた紅が可哀想で鏡から目を背けた。他人のクローンにもなりきれず、サンジの恋人にもなれない私は酷く惨めに見えた。
視界に入れたサンジは私を痛ましいとでも思っているのか、眉を下げてこちらを見ている。そして、何か決心をした顔で私に近付いて来る。
「ナマエちゃん、今いいかな」
「……丁度、あなたと話したいと思ってたの」
「はは、奇遇だね」
おれもだよ、とスマートな返しをするサンジは普段通りのようで普段通りとは言えない。何かを急いでいるのか、普段よりも会話はスムーズだ。サンジらしい褒め言葉も無ければ、この不釣り合いな化粧への感想も無い。
「単刀直入に聞くけど、その似合わねェ化粧は誰の為?」
「ふふ、随分失礼ね」
「娼婦の真似事みてェだ」
「……酷い言い草」
サンジが時々漏らす女性のタイプを拾い集めた結果だというのにサンジからの評価は下の下。底辺だと思っていいくらいだ。
「……君は誰の為にその格好をしてるの」
「さっきから何が言いたいの?」
ハッキリとしないサンジの態度に私はつい声を荒げてしまう。跳ね上げたアイラインをより持ち上げて、頭一つ分上にあるサンジの顔を睨む私。
「質問を変えるよ」
どこのクソ野郎に染められた、とサンジは私の態度に怯む事なく、食って掛かるようにそう口にした。強く握られた右の手首が痛む、振り払うように腕を払ってもサンジの手は緩むどころか強くなる一方だ。
「それを聞いてどうするの?」
「その野郎をオロす」
「は?何の為に?」
「……ライバルを蹴散らして何が悪いんだい」
サンジの言葉に私の周りの時計の針だけが止まったようだ。何の反応も見せない私を置いてサンジの口からは幻聴のような言葉が垂れ流しになっている。
「先に好きだったのはおれなのに何処の馬の骨かも分からねェクソ野郎に横取りなんてされてたまるかよ、それに君を自分色に染めてェのか知らねェけどナマエちゃんはもっと淡いメイクの方が似合うし前のままでクソ可愛かっただろうが!クソ!」
他人を変える前にテメェのこだわりを捨てろ、と存在していないライバルに怒るサンジは行儀悪く舌を鳴らす。
「……今の君だって確かに綺麗だ。だけど、そのメイクをした君はいつも苦しそうで見てられねェ」
サンジのフォローがまともに頭に入ってこない。
「ナマエちゃん?」
「……サンジって、えっと、好きな人がいるんじゃないの?」
「うん、君」
私の顔を指差して、サンジはあっけらかんとした様子でそう答えるが私は未だにこの現状が理解出来ない。都合のいい夢と言われた方が信じられそうだ。
「忘れられない相手がいるんじゃないの」
「うん。だから、君」
ジジイのとこで見た君の手配書が美しくて今も忘れられねェ、とサンジはジャケットの裏ポケットから折り畳んだ手配書を出してくる。少しだけ黄ばんだ手配書の真ん中でこちらを見ていたのは好戦的な視線を寄越す素顔の私だった。愛銃と共に写る私の輪郭を撫でながら、サンジはこう口にする。あの時、撃ち抜かれたのはおれの心臓だ、と。
視界に入れたサンジは私を痛ましいとでも思っているのか、眉を下げてこちらを見ている。そして、何か決心をした顔で私に近付いて来る。
「ナマエちゃん、今いいかな」
「……丁度、あなたと話したいと思ってたの」
「はは、奇遇だね」
おれもだよ、とスマートな返しをするサンジは普段通りのようで普段通りとは言えない。何かを急いでいるのか、普段よりも会話はスムーズだ。サンジらしい褒め言葉も無ければ、この不釣り合いな化粧への感想も無い。
「単刀直入に聞くけど、その似合わねェ化粧は誰の為?」
「ふふ、随分失礼ね」
「娼婦の真似事みてェだ」
「……酷い言い草」
サンジが時々漏らす女性のタイプを拾い集めた結果だというのにサンジからの評価は下の下。底辺だと思っていいくらいだ。
「……君は誰の為にその格好をしてるの」
「さっきから何が言いたいの?」
ハッキリとしないサンジの態度に私はつい声を荒げてしまう。跳ね上げたアイラインをより持ち上げて、頭一つ分上にあるサンジの顔を睨む私。
「質問を変えるよ」
どこのクソ野郎に染められた、とサンジは私の態度に怯む事なく、食って掛かるようにそう口にした。強く握られた右の手首が痛む、振り払うように腕を払ってもサンジの手は緩むどころか強くなる一方だ。
「それを聞いてどうするの?」
「その野郎をオロす」
「は?何の為に?」
「……ライバルを蹴散らして何が悪いんだい」
サンジの言葉に私の周りの時計の針だけが止まったようだ。何の反応も見せない私を置いてサンジの口からは幻聴のような言葉が垂れ流しになっている。
「先に好きだったのはおれなのに何処の馬の骨かも分からねェクソ野郎に横取りなんてされてたまるかよ、それに君を自分色に染めてェのか知らねェけどナマエちゃんはもっと淡いメイクの方が似合うし前のままでクソ可愛かっただろうが!クソ!」
他人を変える前にテメェのこだわりを捨てろ、と存在していないライバルに怒るサンジは行儀悪く舌を鳴らす。
「……今の君だって確かに綺麗だ。だけど、そのメイクをした君はいつも苦しそうで見てられねェ」
サンジのフォローがまともに頭に入ってこない。
「ナマエちゃん?」
「……サンジって、えっと、好きな人がいるんじゃないの?」
「うん、君」
私の顔を指差して、サンジはあっけらかんとした様子でそう答えるが私は未だにこの現状が理解出来ない。都合のいい夢と言われた方が信じられそうだ。
「忘れられない相手がいるんじゃないの」
「うん。だから、君」
ジジイのとこで見た君の手配書が美しくて今も忘れられねェ、とサンジはジャケットの裏ポケットから折り畳んだ手配書を出してくる。少しだけ黄ばんだ手配書の真ん中でこちらを見ていたのは好戦的な視線を寄越す素顔の私だった。愛銃と共に写る私の輪郭を撫でながら、サンジはこう口にする。あの時、撃ち抜かれたのはおれの心臓だ、と。