短編3
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目の前に座るスーツ姿の男はまるでチンピラだ、その胡散臭い話術と笑顔があるお陰で詐欺師にも見える。だが、男が私に要求するのは金銭でも私の首でもなく、サンタクロースの手紙だ。大柄な体格に白い髭に赤い帽子、背中に背負った白い袋には世界中の子供達へのプレゼント。そんな存在を信じていられる程、平和な幼少期を過ごしていない私は鼻で笑ってしまう。そんなものいないわよ、と。
「君は信じてねェの」
「あなただって信じてないくせに」
手紙を要求してくるサンジだって碌な幼少期を過ごしてないと聞く。だが、あのオーナーに引き取られてからはクリスマスに良い思い出でも出来たのだろうか。白い髭では無いが彼ならいいサンタクロースになってくれそうだ、とサンジの幼少期を想像して心を温かくする私。
「サンタクロースはいねェけどさ、君だけのサンタクロースになりてェ男はいるよ」
「そのサンタクロースは随分と若いのね」
「はは、見習いってとこかな」
サンジはテーブルに置かれたペンと紙を手に取って私に差し出す。
「住所も書かねェとサンタクロースは迷っちまうんだって」
「海賊に住所を求めないで欲しいわ」
「サニー号のサンジくんの腕の中が君の現住所♡」
本当にサンタクロースが存在していたら呆れ返ってしまうような住所だ。惚気なら他所でやれ、と手紙を破かれてしまうかもしれない。この住所が使えるのは目の前にいる見習いだけだろう。きっと、この紙切れを宝物のように毎年保管する気でいるのだ。サンジの行動なんてとっくに読めている。
「はいはい、サニー号のサンジくんの腕の中 あなたのナマエとでも書いたら満足かしら?見習いさん」
サンジの顎に指を滑らしてクイッと持ち上げる。そして、反応を試すようにそう口にすればサンジは壊れた玩具のようにコクコクと何度も頷く。その姿はアイドルのサインを欲しがるファンのようで、つい、笑ってしまう。
「ふふ、このままじゃあなたのクリスマスプレゼントは私のサインになっちゃうわよ?」
それが欲しいとサンジが言い出す前に私は差し出されたペンの先端を紙に滑らせる。そして、欲しい物を考えた時に一瞬だけ頭に浮かんだ我儘をそこに記していく。サンジに見えないように片腕を壁のようにして書いていれば、頭の上から笑い声が降ってくる。
「っ、くく、盗み見なんてしねェよ」
楽しみは後に取っておく質なんだ、とサンジは煙草に火を付けながらそう口にした。
「私がキッチンを出たら読んでね」
「了解、良い子のお願い承りました」
サンジは折り畳まれた手紙にキスをして、キッチンを出て行く私の背中にひらりと手を振った。
『あなたが欲しい』