短編3
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目が覚めて一番に視界に入ってきたのは愛しい恋人の顔ではなく、愛しい恋人の旋毛だった。シーツに頭をめり込ませるように土下座をするサンジ。世間ではごめん寝と言うんだったかしら、とまだ開き切っていない目を擦りながら私は起き上がり、そんな事を考える。頭を上げずにひたすら謝罪を滝のように垂れ流すサンジには悪いが寝起きの碌に回っていない頭ではサンジが何に対して謝っているのかすら分からない。私は昨晩、サンジと甘い夜を過ごした筈だ。それに今だって十分な睡眠を取れて万々歳といった様子だ。
「サンジ、なにかしたの?」
寝起きの甘い舌でふにゃふにゃとサンジに問い掛ければ、サンジは切腹でもしそうな青白い顔でこちらに視線を向けて重苦しく頷いた。
「なぁに、どうしたの」
また、直ぐにシーツに頭をめり込ませてしまいそうなサンジの頬に手を伸ばして色を失った頬を撫でる。サンジは視線を下げると毛布を少しだけ横にずらして私の何も身に纏っていない腰を指差す。
「……ここ、酷ェ痕になってる」
おれの手痕だ、とサンジはまた一段と顔色を悪くするが痕を付けられた本人からしてみれば拍子抜けだ。
「薄っすらじゃない、それに今回が初めてじゃないわよ」
「……死んで詫びるしかねェ」
「ふふ、大袈裟なんだから」
こんな手痕すぐに消えちゃうわよ、と私は自身の腰に薄っすらと浮かんだ紅葉に手を重ねる。痛くも無ければ、私にとってはキスマークと似たような認識でいる。キスマークにしては範囲は豪快だが愛された証のようで私は気に入っている。だが、普段から過保護で私を飴細工のように扱うサンジにとっては衝撃的だったのだろう。
「……痛くねェかい?」
己の抑えが効かなかったせいだ、と放っておくと反省モードに入ってしまうサンジの腕を掴み、自身の方にその体を引く。
「サンジにぎゅってしたまま、愛されるのが好きなの」
「だけど、痕は別だ」
「キスマークと一緒よ、ほら、ここにもこっちにも散らばってる」
そう考えたら手痕だって素敵じゃない?とサンジに問い掛ければ、目尻を緩く下げて私の頭をポンポンと優しく撫でるサンジ。
「……君らしいね」
「それにサンジは私に酷い事なんて出来ないわ」
「君の中のおれは随分と聖人みてェだ」
そうかも、と戯けるように片目を閉じる私にサンジは、まいったな、と困ったように笑う。
「聖人だったら、もっと上手くやるさ」
私の腰に浮かんだ紅葉を指でするりと撫でるサンジ。
「サンジ?」
「……おれの無意識が君を穢すのが許せねェなァ」
「穢したんじゃなくて、染めたのよ」
君の口は言葉遊びが上手だね、そう言って唇に触れたサンジの指先。その指先も唇も私の肌を染めるには十分だった。