短編3
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今の時代、レシピを探す事も料理の作業工程動画を見る事も簡単だ。それにSNSを探せば一流シェフの手頃な簡単レシピというようなタイトルで何百件とお目当てのレシピがヒットする。だが、それらを真似しても普段食べているサンジの料理とは比べ物にならない。不味くて食べられないわけではないが普通なのだ、美味しいと言えば美味しい、不味いかと聞かれたら不味くはないレベルのものが皿にのっている。これなら、コンビニや外食で済ませた方が楽だろうとすら思える。
「なのに、おれに教えを乞う君はなんて頑張り屋なんだ」
「そう、投げ出さずに偉いでしょ?」
調子に乗る私の事を否定もせずにサンジは馬鹿真面目な顔で何度も頷く、その姿はまるで顎を揺らす赤べこのようだ。
「冗談なのに」
「料理ってしねェ人間からしたら手間だろ?」
「……確かに楽ではないわね」
「だから、偉ェなァって」
それに君に教えられる事があって良かった、とサンジは言う。だが、普段から私はサンジに教わってばかりだ。日常のちょっとした事から愛なんて大それた事まで教えてくれたのは全てサンジだ。
「……自己肯定感が低いのかしら」
「ん、なぁに?」
「いいえ、ただ、私にサンジの魔法が使えるかしらと思って」
「料理が魔法なら必要なのは技術より気持ちかな」
食べてくれる人間がいて初めて料理になる、そう言ってサンジは手元にある食材に視線を向ける。その食材は私が用意したものだ。きっと、サンジなら見ただけで私が何を作りたいか分かる筈だ。
「……君って最高って言われない?それとも、もう魔法使いだったりする?」
「完成したらあなたに言ってもらうわ」
「フライングしちまいそうだ」
まだ、取っておいてと私は持参したエプロンを頭から引っ掛けて、腰にリボンを結ぶ。刺さるような視線が背中に送られてくる、私は後ろを振り返りニヤリと笑う。
「奥さんみたい?」
「……あァ、最高の眺めだ」
元々の垂れ目をより垂らして、サンジはそう口にする。
「辛口海鮮パスタが上手く作れるようになったら、この指に指輪をはめてくれる?」
「胃袋まで掴まれちまったら、もう逃げ場が無くなっちまう」
「あら、逃げたいの?」
「おれは追いかけたい派なの」
そう言って後ろから抱き着いてくるサンジ。私の肩に頭を埋めて、それ以上完璧になっちまったらまた敵が増えちまう、とブツブツ小言を漏らす。敵なんて大袈裟な言い方をするサンジのせいで私の男友達はルフィやゾロ、ウソップと昔から変わらないメンバーしか残っていない。それにフランキーやブルック。他は皆、チンピラのような形相をしたサンジが見事に蹴散らしてしまった。
「ほーら、これじゃ料理が出来ないわよ」
急かすようにサンジの腕を叩けば、サンジは渋々といった様子で腕を離す。
「手取り足取り教えるのも有りだと思わねェ?」
ジロッと睨めば、サンジは肩を竦めてこう口にする。
「冗談だよ」
おれは料理と君に対しては真摯だ、とサンジは袖を捲りながらこちらを見る。そこは料理だけでいいわよ、と素っ気なく答えた私はサンジが捻った蛇口に割り込むようにサンジの手の横に自身の手を滑り込ませる。高さが合わない肩をぶつけながら狭い水道で戯れ合うように手を洗う私達はきっと他人から見たらお似合いの夫婦に見えるだろう。だが、それを言えばいつまで経っても辛口海鮮パスタはこの皿に盛り付けられなくなってしまう。私はサンジにバレないように愛しい未来を想像しながら、サンジに魔法を習うのだった。