短編3
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全然大丈夫、と虚勢を張った声は情けなく震えていた。この様子じゃ、きっと表情管理だって失敗しているだろう。目の前にしゃがみ込んだサンジは私の強張った手に触れる、緊張からか指先は小刻みに震えて落ち着かない。サンジは引き出しの中からマッサージオイルを取り出すと適量を手に取り、私の手に揉み込む。
「力み過ぎちゃ上手くいく事も上手くいかなくなっちまうよ、レディ」
ラベンダーの良い香りが部屋に広がる。何種類もあるオイルの中からラベンダーを選んだのは緊張を解したりリラックスしたい時にはラベンダーがいいとされているからだろう。サンジの指が手のツボをゆっくりと押し、私の冷えきった手に熱を取り戻す。
「適度な緊張感は大事だけどね、ガチガチで強張ったままじゃ勿体無ェよ」
「……他人事だからそう言えるのよ」
「他人だから分かる事もあるよ」
だって、君の頑張りを見てきたのはおれだもん、とサンジは口元に笑みを浮かべる。そして、私の手をぎゅっと包み込み、こう言葉を続ける。
「おれが君の不安も怖さも全部預かっておくからさ、○○ちゃんはおれの言った「大丈夫」だけ持って行ってよ」
「……駄目だったら責任取ってよ」
「おれには君が駄目になる未来が見えねェんだけど、君はどう?」
サンジは挑戦的な笑みを私に向ける。これは煽りか激励か、判断が難しいが負けず嫌いの私にはこのぐらいの激励が丁度良いのかもしれない。やってやるわよ、と宣言した私の声はもう震えてはいなかった。
「っ、はは、だろ?」
君はやる女だ、とサンジは私に拳を突き出す。それにコツンと右手の拳をぶつければ、そのまま、サンジの腕の中に引き寄せられる。
「……だけど、怖くなったら逃げても大丈夫だからね。おれは怒らねェし、今回の面接一つ逃したって死にやしねェ」
「……うん」
「だけど、これは他人が決めちゃいけねェんだ」
後から絶対ェ後悔するから、サンジはそう言って私を見つめる。
「随分と都合がいいのね」
「……本当は君の代わりに面接に行ってやりてェし、面接官を脅してやりてェぐれェなのを我慢してるって言ったら止められちまうだろ?」
「自分で行くからサンジは家で待機」
即座にそう返せば、サンジは喉を鳴らして笑う。きっと、私の反応が想像通りだったのだろう。
「お迎えは行ってもいい?」
「誰の事も脅さないのなら」
「善処するよ」
善処じゃなくて約束よ、とサンジの小指に自身の小指を巻き付けてお馴染みのリズムに合わせて小指を揺らす。だが、歌が終わってもサンジは小指を離そうとはしない。
「……もう一つ、約束」
「?」
「君に春が来る事を一番信じてるおれから一つ」
きっと大丈夫だよ、ナマエちゃん、と約束された私の春は遠くにある。だが、いつも隣で支えてくれているサンジの瞳には私の春が見えたのだろう。その、碧眼に映る春を手に入れる為に私は自分自身の未来を選択するのだった。