短編3
name
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
慣れない下駄をカランコロンと鳴らしながら、賑わう人混みの中をサンジの手を頼りにゆっくりと進む。普段以上に配慮されたサンジの歩幅にむず痒い気持ちになりながら、出店を順に目で追っていけば、りんご飴、焼きそば、お面が売っている出店などがある。だが、私が真っ先に目を惹かれたのはあまり見た事が無い出店だった。
「何か気になる屋台でもあったかい?」
「ほら、あれ」
「ん?」
金髪の隙間から覗くサンジの片目が私の指の先を追うように動く。そして、二人の視線はある出店に吸い寄せられる。
「へェ、花を釣れるのか」
「初めて見たけど綺麗ね」
袋に入った生花が大きな桶の中に浮かんでいる、桶の周りには女性や子供が集まってヨーヨー釣りなどに使う釣り針を輪っかに引っ掛けて花を釣っている。
「せっかくだし、どう?」
「美しい君に花をプレゼント出来るチャンスを逃すとでも?」
そう言って私の手を引くサンジは私よりも浮かれているように見える。
「桶中の花を取って君にプレゼントするね!」
「一本も取れなかったどうするのかしら」
私の意地の悪い言葉に反応したサンジはこちらを振り返り、へらりと甘い笑みを溢す。むくれた顔が返ってくると想像していた私は少しだけ拍子抜けする。
「そしたら、君がおれにちょーだい」
サンジは出店の前に来ると自身の財布から二人分のお金を取り出して、私が静止する前にお金を払ってしまう。
「ナマエちゃん、釣り針だって」
「もう、このぐらい自分で払えるわ」
サンジにそう伝えた所で毎回返ってくる言葉は決まっている。甘やかす機会を奪わねェで、と計算尽くされたあざとい表情でお願いと言われてしまえば私には引き下がる事しか出来ない。
「いつか全額返してやるんだから」
「それを使って君に大きい買い物でもするよ」
そんな、やり取りをしながら私達は水に釣り針を浸す。弱々しいこよりが濡れてしまわないように慎重に狙いを定めていく。輪っかに針を通し、いざ、というタイミングで私の意識は目の前の金髪に向く。伏せた目元は出店を彩る電飾のせいか、髪と同じ色をした長い睫毛がキラキラと輝く。
「ナマエちゃん!取れた!」
「へ」
手元から釣り針が落ち、水の中に落ちていく。目の前のサンジは自分自身のせいで私の釣り針が落ちたと思ったのか、申し訳無さそうに特徴的な眉毛をハの字にしている。
「……わ、悪ィ」
「見惚れてただけよ、お花に」
つい、ボーッとしちゃった、と苦笑を浮かべれば、サンジは私に花が入った袋を渡す。
「○○ちゃん見てて、直ぐにブーケにしてあげるから」
そう言って、サンジは未だに濡れていない釣り針を水に浸す。ヒョイ、ヒョイと持ち上げられていく花の山に唖然としながら目の前の真剣な恋人の顔につい、私は見惚れてしまうのだった。