短編3
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視線が痛い。普段から身体の真ん中にどデカい穴が空いてしまいそうなくらいサンジから見つめられている自負があるが今日はまた一段と視線が痛い。顎髭を触りながら、熱心な視線を送ってくるサンジ。言葉を投げ掛ければ、ちゃんと返事は返ってくる。だが、しっかりとした会話をしながらもサンジの頭は別の事を考えているようだ。悩んでいるような素振りと熱心な視線、その理由を私が尋ねる前にサンジの方からその視線の理由を口にしてきた。
「なんかさ、今日のナマエちゃん可愛い」
いや、可愛いのはいつもなんだけど、とサンジは黙ったままの私を置いて、先に先にと話を進めてしまう。サンジの目には私専用のフィルターが二枚重なっている、女性特効と恋人特効。他の人間が私を見たって、どこにでもいる女程度の認識だと思うがサンジの目に映る私は天使か女神か、それともマーメイドだろうか。大袈裟な称賛を浴びながら航海をしているせいか、以前よりもずっと自信がついたとは思うがサンジの言葉を全て鵜呑みにしているわけではない。
「何だ……メイクか、いや、昨日だって同じアイシャドウだった」
「何も変えてないわよ、いつも通りの私」
視線に耐えられなくなった私は背中に敷いていたクッションを手に取り、悩ましげな表情を浮かべるサンジの顔にそれを押し付ける。情けないサンジの声がクッションの向こう側から聞こえてきたが今の私にとっては些細な問題だ。
「見過ぎ」
それに過大評価し過ぎよ、と私は赤くなった頬を隠すようにそっぽを向いて素っ気ない返事を返す。鵜呑みにしないと照れは別だ、恥ずかしいものは恥ずかしい。クッションから顔の半分を覗かせたサンジは私の手からクッションを奪うと代わりに顔を近付けてくる。
「どこが過大評価なの」
そう言って、サンジは私の顎を指で掬い上げる。そして、また熱い視線で私を焼くようにじっとりと見つめる。
「こーんなに可愛いのに君は自覚がねェんだね」
「っ、もう、分かったから」
「分かってねェから、おれが教えてあげるよ」
これは変なスイッチを入れてしまったのだろうか。サンジは私の頬を指先でなぞりながら、こう口にした。
「その林檎みてェに真っ赤に染まった君を食っちまいそうだ」
君を見てると腹が減る、そう言ってサンジはへこんだ腹を空いた手で撫でる。私はサンジの口から次のとんでもない台詞が飛んでくる前にそのお喋りな口を封じる。だが、サンジは感情の読めない表情を浮かべながら私の手のひらに口付けを落とす。ちゅ、と愛らしいリップ音が鳴るが目の前の男は決して可愛らしい小動物などではない。林檎に牙を立て、その鋭い歯ですり潰す狼とそう変わらない。
「っ、はは、冗談だよ」
「趣味悪い」
「女の趣味とジョークの趣味は良い筈なんだけどな」
「っ、また、そうやって私の反応で楽しむんだから!」
可愛い君の可愛い一面に触れてェだけなんだけどな、とわざとらしく肩を竦めるサンジを小突く為に軽く手を上げる私。だが、器用に私の手を避けたサンジは私の手首をするりと捕まえて、こう口にした。
「おれに恋してる君の顔がいちばん可愛い」