短編3
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この時期になるとサンジは私に薔薇を買ってプレゼントしてくれる、十二本の深紅の薔薇には一本ずつちゃんと意味がある。感謝・誠実・幸福・信頼・希望・愛情・情熱・真実・尊敬・栄光・努力・永遠、全て結婚生活に大切なメッセージが込められているらしい。全てサンジの受け売りの知識だ、毎年この薔薇のプレゼントを楽しみにはしているが一つ一つの意味については自信が無い。綺麗に包まれた深紅の薔薇とサンジの情熱的な言葉の前で知識なんて必要無い、必要なのは相手を想う気持ちだけだ。だが、今回サンジに贈られたのは花弁が所々禿げてしまったヨレヨレの薔薇と謝罪だった。渡してきた張本人は今にも死にそうな顔色をして、背中に見窄らしい薔薇を隠してしまった。
「変わったデザインね」
私はなるべくサンジが気に病まないようにわざと明るい声を出す。だが、私の気遣いは意味を成さなかったのか、サンジの碧は悲しげに揺れ、涙の粒が目尻にぷっくりと浮き上がる始末だ。
「……っ、へへ、ボロボロになっちまった」
「……サンジ」
無理に笑うサンジの頭を引き寄せるように抱き締める。サンジは私の肩に頭を預けて、事の有様を語る。どうやら今回も島で薔薇を調達したサンジは直ぐに船に戻るつもりだったらしい。だが、今では四皇の一味だ。あんなに似ていない落書きのような手配書でも正体が海軍にバレてしまったらしい。そして、そこからは海軍との物騒な鬼ごっこだ。隠れて走り回って蹴散らして、そんな事を繰り返し、気付いた時には手元の薔薇はこの有り様だったとサンジは言う。
「喜んで欲しかったんだけど……はは、これじゃ、台無しだ」
サンジは取れる寸前の花弁を軽く引っ張ると、風に飛ばす。
「それがいい」
「……これが?」
「形なんて別にいいじゃない、それに最後にはみんな枯れちゃうわ」
風情も可愛げも無い私の言葉にサンジの肩の力が抜ける。へらり、と表情筋を緩めたサンジは私の前に草臥れた花束を差し出す。
「貰ってくれる?」
こくり、と頷いた私は花束の中からなるべく被害の少ない薔薇を一本抜く。そして例年通り、その薔薇をサンジのジャケットの胸ポケットに挿す。
「今年もあなたに愛を」
そう言って、私は花束を抱きしめたまま、背伸びをしてサンジの頬に口付ける。腰にサンジの腕が回され、私はサンジの腕の中に閉じ込められる。
「それ以上におれは愛してるよ」
「あら、私よ」
「君は控えめにしてくれよ」
「どうして?」
君の愛に溺れて死んじまいそうだから、とサンジは口にする。大袈裟だと笑えば、大袈裟なもんか、と戯れるようなキスが顔中に降る。私達の真ん中で押しつぶされそうになっている花束はまるで私達のようだ。相手の愛情に溺れ、瀕死になっている私達に見窄らしい花束を重ねれば、この十二本が酷く愛おしく思えた。