短編3
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穴があったら入りたい、今の私の心境を言葉にするならこの言葉がしっくり来る。そして、次にピッタリの言葉はとりあえず此処から逃げ出したいだ。テーブルに置かれたサンジのスマートフォンの液晶には私とのメッセージのやり取りがしっかりと残っている。だが、そのメッセージ自体が間違いなのだ。元々、私はサンジがトイレに行っている隙に友達にメッセージを送った、つもりでいた。いつもの馬鹿なテンションで恋人であるサンジを自慢したかったのだ。謂わば、惚気だ。
『ビジュやばい』
『隣見れないんだけど』
『多分世界で一番出来た彼氏』
既読だけが増えていくメッセージにいつものようにスルーされたと思った私はメッセージ欄を荒らすようにサンジとの惚気を壁打ちした。そして、軽快な音と一緒に届いたメッセージ。
『おれに直接教えてよ、ナマエちゃん』
スマートフォンを持つ指先の温度が数度下がったような気がした。メッセージの送り先を見れば、そこには友達の名ではなくサンジの名前があった。震える指先でメッセージの取り消しをしようとすれば、隣から白い指先が伸びてくる。
「消さねェで」
「……あ、あの、これは乗っ取りデス」
「ふっ、随分可愛い乗っ取りだね」
サンジはそう言って、私の目の前の席に座って絶望顔を浮かべる私を楽しそうに見つめる。居た堪れない私は両手で顔を覆って、テーブルに崩れ落ちる。
「……消えたい」
項垂れる私の頭の上にサンジの大きな手が重なる。
「お友達じゃなくて、おれに教えてよ」
世界で一番出来た彼氏の事、そう言ってサンジは私の頭をポンポンと撫でる。指の隙間からサンジの方を覗き込めば、全てを包んでしまいそうな碧が私を見つめていた。
「……気持ち悪いって思わなかった?」
「何で?」
「だって、好き勝手に言ってたでしょ……」
悪い事は何も言っていない、ただ好き勝手言われていたサンジからしたら私の言動はあまり褒められたものでは無いかもしれない。
「君がどんなおれが好きで、どんなおれにメロっちまうのか知れて良かったよ」
良い収穫だ、と無邪気にピースサインをしてくるサンジに私の胸はキュンと音を立てる。そんな場合では無いのに恋をしている人間の思考回路は単純なもので、直ぐに好きに傾いてしまう。うぐ、と心臓を押さえる私にサンジはおかしそうに喉を鳴らして笑う。
「っ、くく、おれは君が可愛すぎて前が向けねェなァ」
先程の私の言葉を真似るサンジ。だが、その瞳は私の一挙手一投足すら逃さないと言いたげに私を映している。
「お友達はさ、こんな可愛い君のことも知ってんだもんな」
「……女の子よ?」
「レディだからとか関係ねェよ、ただ、可愛い君を見逃すおれが許せねェだけ」
君の大きな矢印の向こうにはおれの特大の矢印が君に向かってるんだよ、そう言ってサンジはメッセージではなく直接、私に特大の愛をお返ししてくるのだった。