短編3
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なぁに、変な顔して、そう言ってサンジは私の色付いた頬に触れる。この色はアプリコットなんとかと先程サンジが教えてくれたが私の頭の中に洒落た知識を収納するスペースは殆ど無い。いや、全くと言ったって過言ではない。サンジもそれを理解した上で私を着飾っているのだから別に問題は無いだろう。
「サンジの事だからもっと布……いや、破廉恥な服を用意してると思ってたから驚いた」
「破廉恥な服ねェ」
余計な事を言ってしまったと後悔したところでサンジのニヤケ面が収まる気配は無い。きっと、想像力豊かなその頭の中で私は着せ替え人形にでもなっているのだろう。
「でも、見えねェ方がセクシーに見える時だってあるんだよ」
「それはサンジの考え?一般論?」
「さぁね」
でも、今日の君は間違いなく美しいよ、とサンジはドレッサーの向こう側に映る私に笑い掛ける。鏡の中の私は着飾られて、どこか頼りない瞳で自身とサンジの顔を交互に見つめている。
「……こういうのはナミやロビンの方が、」
私じゃ役不足だ、と口にすればサンジの腕が後ろから回され、首の前で腕が交差する。そして、唯一露出している首元に触れるだけの口付けが降ってくる。
「なら、着ればいいんだ」
「何を?別のドレスでもあるの?」
サンジは交差していた腕を外すと、私の両肩をポンと叩く。
「自信を着るんだ」
「自信……?」
「君に足りねェのは自信だけ」
他はもう揃ってるよ、そう言ってサンジは私に手を差し出す。今の服装も相俟ってか、お姫様のように扱われるのが少しだけ照れ臭い。らしくない事のオンパレードに息が詰まってしまいそうだ。
「君にとっては潜入の為だけの張りぼてかもしれねェけどさ、おれには本物のプリンセスに見えるよ。レディ」
「……本当に?」
このドレスに袖を通した時、私は可哀想だと思った。服は人間を選べない、人間には服を選ぶ基準があるが服はどんなに嫌な相手だろうと袖を通させなきゃいけない。
「君がワンピースみてェだ」
「はは、大秘宝?」
「誰にも見せねェで小箱にしまっておくには勿体無ェ程のね」
自信を着こなせる程、心は強くない。今だってナミやロビンの方が適任だと内心では思っている。
「……あなたがエスコートしてくれるのなら」
慣れないヒールを鳴らして、身の丈に合っていないようなドレスの上に自信を羽織ってダンスの一つや二つ踊れるかもしれない。鏡に映った私の背中はもう丸まってはいなかった。