短編3
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他人の目におれ達がどう映っているか君はちゃんと理解した方がいい、とサンジさんは落ち着いた声で私にそう言い聞かせる。その言葉の意味を理解出来ない程、子供でもない私は反論も同意もせず黙り込む。先程まで湯気が立っていた紅茶は冷めて、せっかくの旨味を逃してしまっている。口を付けた紅茶はもう冷め切って、苦みが口に広がる。
「おれが一番怖ェのはね、君の人生を壊してしまう事だよ」
こんな老いぼれに君の輝かしい時間を使わないでくれ、とサンジさんは目尻の皺をくしゃりと下げて困った様に笑う。年齢を感じさせる皺と少年のような表情が重なり、どこかアンバランスなサンジさんの魅力の罠に引っ掛かった私はまるで蜘蛛の巣に手足を絡め取られる蝶のようだ。きっと、虫嫌いなサンジさんにそんな例え話をしたら顔を顰められてしまうだろう。
「……なら、何故思わせぶりな態度を取るの」
「駄目な大人で臆病な男だから」
自嘲を浮かべて、私の手に自身の手を重ねるサンジさん。指同士を絡めて、互いの隙間を埋める。手ではなく心の隙間を埋めたいという我儘はサンジさんの自嘲に掻き消されてしまった。
「年若い君に溺れていくおれは酷く滑稽だろ?」
「私には溺れる隙もくれないくせによく言うわ」
「っ、くく、おれに魅力が足りねェだけだよ」
豊かなウェーブヘアは肩に掛かり、左側の瞳を前髪に隠す姿は酷く艶めかしい。それで魅力が足りないのなら私の魅力なんてあってないようなものだろう。
「私はもう自分で選択出来るわ、サンジさん」
「……ナマエちゃん」
「良い子のフリをして弁えてたら貴方はいつだって、そのよく回る口で私を遠ざけるでしょ」
絡めていた手をこちらに引けば、サンジさんは体勢を崩す。このままキスの一つでもしてくれればいいのに、と突き出した唇は想像通りの空振りだ。サンジさんは空いていた手で私の唇をふにっと突くと、悪い子にはサンタは来ねェよ、レディ、と私の作戦を台無しにする。だが、私はその指を軽く弾くとサンジさんの綺麗に結ばれた髭に触れる。
「恋人がサンタクロースって言うでしょ?」
そう言って私は勝ち気な笑みを浮かべる、少しだけ背伸びしたルージュが私の背中を押すように唇を照らす。
「……レディが大人になるのは瞬きする一瞬よりも早い」
「なら、数年後には年の差なんて些細なものね」
「強情なレディに好かれると苦労するよ」
やれやれと肩を竦めるサンジさんは私よりも強情だ。恋愛に年齢差なんて関係ないと言いながら目の前に落ちてるチャンスを棒に振ろうとする。
「そんな私に溺れる気分はどう?」
「参ったね、君に言い負かされる日が来るとは……」
未だに逃げ腰でいるサンジさんの膝に跨り、先程の空振りを帳消しにするような乱暴な口付けをする。無作法な口付けはサンジさんの煙草の苦味と淡い初恋の味がした。