短編3
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駅内の電光掲示板を見上げれば、お馴染みの時間が表示されている。まだ終電まで数本の余裕がある時間帯だ。だというのに、サンジは決まって私をこの時間に帰す。お互いにもう良い大人でしょ、と反論したところで誠実な正論に打ち負かされるのが目に見えている。だから、今日も物分りの良い彼女の仮面を被ってお利口な時間にサンジの大きな手とお別れをするのだ。頭に入っているスケジュールを確認すれば、次に会えるのは早くて来週、どちらかの仕事次第ではその予定すら無くなってしまいそうだ。どれだけ物分りの良い彼女のフリをしたって寂しいものは寂しい。
「……サンジは寂しくないの」
しまった、と口を押さえたところでもう遅い。駅内の喧騒に紛れた独り言すらサンジには簡単に届いてしまう。女性限定で特化したサンジの耳が今だけは憎らしかった。
「あ、えっと……何でもないの、気にしないで……!」
「君は寂しいの?」
サンジは私のもたついた否定を華麗にスルーし、私が言いやすいように視線を合わせたまま軽く膝を折り曲げる。きっと、私から全てを聞き出すまでサンジはここから動かないだろう。逃げられない事を悟った私は今まで我慢していた言葉をぽつり、ぽつりと吐き出していく。
「……デートのさよならって寂しいでしょう?でも、いつも早くにバイバイするからサンジは違うのかなぁって……」
「不安にさせちまったかい?」
「ちょっとだけ……」
サンジを困らせたいわけではない、朝だってサンジの方が早いのだ。早く帰してあげた方がいいと理解しながらも離れられないのはサンジが私の我儘を許してくれる事をどこかで期待しているからだ。
「なら……もう少し、君を独り占めしてもいいかい?」
寂しいのはおれだけだと思ってたんだ、とサンジの長い指先が私の指を迎えに来る。あっという間に私の手は大きな手の中に逆戻りだ。先程よりも少し湿った手がサンジの緊張を伝えてくる。
「家までご一緒しても?」
「ふふ、上がっていく?」
「なっ!?あ、エッ、それは早ェって……!」
ぎこちない延長タイムを申し出て不自然な足取りで改札を抜ける二人。ホームには秋風が吹く、夏のベタっとした風とは違って秋の風はふわりと臆病な二人の背中を優しく押す。
「……なァ、ナマエちゃん」
「なぁに」
「次はおれん家おいでよ、終電逃したフリしてさ」
そんな会話をしていればホームに電車が到着する。頭上で流れるアナウンスに被せるように囁いた声はきっとサンジには届いているだろう。帰さないで、という一言が。