短編3
name
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
男という生き物は思わせぶりな態度を取って、結局はそんなつもりでは無かったと被害者面をして女を振るのだ。今の私はそのテンプレにしっかりと当てはまった惨めな女Aとでも言えばいいのだろうか。私に足りなかったものは女の魅力、それとも察しの良さか。あれこれと考えたところで彼と付き合える未来は訪れない。それに告白前の関係に戻れるわけでもない。言うならば、今の私は絶望の先端に立ち、グラグラと危ない足取りをして気力だけで立っているようなものだ。
「君はいい女だよ」
「慰めはいらないわ」
「なら、何が必要?」
「お酒」
私の色気のない返事が気に入ったのか、サンジはくすくすと笑いながら私の空いたグラスにワインを注ぐ。アルコールに逃げるなんて良くない事だとは分かっている、お酒は楽しく飲むものだと頭の中では理解しているが傷付いた心はそれを払い除けてアルコールに逃げ出す。「さっき言った事だけどさ、君がいい女なのは事実だよ。そんな君に気付なかった相手の男は正真正銘の馬鹿、クソ馬鹿だ」
「……私が勝手に勘違いしただけよ」
「ほら、そういうところ」
君を傷付けた相手を傷付けねェところが君の美徳だ、とサンジは言うが実際はそんな褒められた人間ではない。
「ただ、自分が傷付きたくないだけ」
「ん?」
「……好きだった私を否定したくないの、馬鹿な男を好きだった時間を無駄だと思いたくないのよ」
結局、私自身が可愛いの、そう言ってお酒で喉を潤す私はサンジの目にはどう映っているのだろうか。
「それでも、おれの評価は変わらねェよ」
「女性に盲目的過ぎるのも考えものね」
「好きだから完璧に見えちまうのかも」
サンジは煙草の煙を燻らせながら、私に視線を向ける。
「傷心中の女につけ込もうって魂胆?」
「……半々ってとこかな」
おれにしとけって気持ちと馬鹿な野郎が羨ましいなって気持ちが半々だよ、そう言ってサンジは肩を竦める。そして、短くなった煙草を灰皿に押し付けると自身のグラスに口付けるサンジ。
「おれは思わせぶりに君を振り回してェわけじゃねェよ、その逆さ」
「逆?」
「君に振り回されてェクソ馬鹿野郎ってとこかな」
恋人として君の手のひらで踊ってみせようか、レディ、そう言ってサンジは私の手のひらに指を二本滑らせる。戯けるようにクルクルと舞う指先はパントマイムのようだ。
「……まだ、切り替えられないわ」
「すぐに切り替えろなんて言わねェよ。ただ、次の野郎に君を譲りたくねェ」
おれはいい子に順番待ちしてるからさ、君はゆっくり傷を癒やして、とサンジはへらりと笑う。そこには企みも男の狡さもない、あるのは純粋な好意と幼稚な恋愛観だけだ。
「馬鹿でしょ」
「っ、ふは、酷ェ」
傷付いた恋心のリハビリに付き合って、と私の手の上を踊っているサンジの指先を捕まえれば、いい子のお返事が即座に返ってくる。それが沈んだ心にやけに沁みて、私はお酒が入っているグラスを手放す。逃げる先はアルコールではなく、馬鹿な男の腕の中に変わっていた。