短編3
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手袋をしていない手は赤くささくれ立っていた。きっと、この騒動でそちらのケアにまで意識が回らなくなったのだろう。ハンドクリームを渡す事も考えたが片思いの相手から自身と同じ香りがするなんて考えただけで落ち着いていられない。それに私がサンジを観察している事もバレてしまうかもしれない。そこから理由を問い詰められ、この長い片想いまでもがバレてしまったら死んでも死にきれない。私はサンジの赤くなった指先から目を逸らして、自身の傷の一つも無い手をギュッと握った。
「(……って思っていた筈なのに)」
何故か私の手にはラッピングまでされた袋が握られている、最初は買う筈では無かったのに好きな人の大切なものが大切にされていない今の状況が私には我慢出来なかった。自身が使用しているハンドクリームと同じシリーズの無香料の物を選び、店員の上手い口車に乗せられて、サンジのイメージカラーである青いリボンまで付けてしまったのはもう言い訳のしようがない。どこからどう見たって手元のこれはプレゼントだ、たまたま買ったから、という言い訳は使えなくなってしまった。渡すタイミングは?何て言って渡すのが正解?と自問自答を繰り返していれば、すぐに船に到着してしまう。私はバレないように足音を殺してデッキに上がる。急ぎ足で女部屋に向かおうとする私の目の前に今一番会いたくない男がふらりと顔を出す。
「わ……っ」
驚いた私は後ろに倒れそうになるが、サンジの腕が素早くこちらに伸びてきて私の右手を取った。冷たい氷のようなこの手は本当にサンジのものなのだろうか、ひんやりとしたサンジの手に引き寄せられた私の体はサンジの大きな体に受け止められる。
「ナマエちゃん、大丈夫かい?どこも痛めてねェ?」
「え、えぇ、大丈夫よ」
「本当すまねェ……」
申し訳無さそうに特徴的な眉毛をハの字にしているサンジには悪いが今の私はその掴まれた手の冷たさに心臓を煩くしている。手が冷たい人間は心があたたかいというがあれはどうやら本当らしい、サンジの中身とのギャップに顔の熱をじわじわと上げていれば、サンジの視線が私から足元に移る。
「これの中身って壊れ物かい……?」
驚いた拍子に私の手から滑り落ちた袋、それに手を伸ばすサンジ。私はサンジが拾う前に勢い良くしゃがみ込むとその袋を背中に隠す。
「な、何でもないの!」
大丈夫、ありがとう、と捲し立てるようにそう口にした私はその場から逃げ出すようにサンジの横を通り過ぎようとするが、サンジの長い足が私の通行を邪魔するように伸びてくる。
「ナマエちゅあん♡」
流石にそれは怪し過ぎねェかな、とサンジは私の背中から袋をひょいっと奪い取った。私との身長差を利用して袋を頭上に掲げるサンジは意地悪な表情で私を見下ろす。
「そんな必死になるぐらい大事なものなのかい?」
「返して!」
「……島の男からのプレゼントとか?」
意地悪な笑みは途端に崩れて、むすくれたような顔をするサンジ。その言葉や表情の意味が分からずに私はジャンプしていた足を止め、サンジを見つめる。黙っている私に痺れを切らしたのか、サンジは私の頭に袋をポンと乗せると一言こう口にした。
「大事なもんなら手放しちゃ駄目だよ、レディ」
袋を受け取った私は離れていくサンジの背中に手を伸ばす。だが、私の手に触れたのはジャケットの裾だけだ。デッキに張り付いていた足を一歩また二歩と踏み出して、その、冷たい手をギュッと掴む。大事なものを手放さないように、サンジが言った通りに私はその手を必死に掴むのだった。