短編3
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出航までの束の間の自由時間、綺麗に着付けた着物は討ち入りが終わった今ではワノ国に馴染む為ではなく、愛する人に見せる為だけに着ている。淡い藤色の生地に散った可憐な花達、少し地味かとも思ったがサンジの反応を見れば、どうやらこれで正解だったらしい。慣れない下駄をカラン、コロンと鳴らしながら普段よりも遠慮した歩幅で歩く私にサンジは首を傾げる。
「ナマエちゃん、もしかして足痛ェ……?」
「どうして?」
「気付くと後ろにいるからさ…あ、もしかして、おれが早かった?」
顔の前で両手を合わせて、ごめんね、と謝罪をするサンジの口元に人差し指を置いて私は首を左右に振る。
「ワノ国では男性の三歩後ろを歩くのがいい女なんですって」
大和撫子の条件みたいなものね、とワノ国で手に入れた知識を披露すれば、サンジは理解が出来ないという顔をして顎に手を持っていく。
「要するに控えめなレディがいいって事かい?」
「お国柄かしらね」
「おれはあんまり好きじゃねェかも。確かに控えめなレディも素敵だよ。だけど、女なら下がっとけみたいな考えが透けて見えるっつーかさ……」
サンジは金髪をくしゃりと掻くと特徴的な眉毛を下げて、私に手を差し出す。
「……君と並んで歩きてェんだけど嫌かな?」
「ふふ、喜んで」
差し出されたサンジの手に自身の手を重ねる、絡んだ指先は恋人繋ぎに変化して二人の間で楽しげに揺れている。
「ほらな、やっぱりこっちの方が麗しい君の顔が近い」
下駄で嵩増しされた身長も相まってサンジの顔が普段よりも近くにある。緩んだ表情はこちらに向けられ、視線が痛いくらいだ。
「お金取るわよ」
控えめな女の皮を剥いだ私はそう言って空いた手でお金のマークを作る。まるでうちの航海士のようだ、と脳内にオレンジ色の彼女を思い浮かべる。
「ナミさんみてェ」
「同じこと考えてた」
だってなぁ、だってねぇ、と顔を見合わせて肩を揺らす私達。ナミにバレたら怒られてしまうかもしれないが、これは一味の共通認識で間違い無いだろう。
サンジは空いた手を懐に入れると、小さな紙袋を取り出す。
「なぁに、それ」
「賄賂」
「あら、何をさせる気かしら」
金はねェけど貰ってくれるかい、そう言ってサンジは私の手に紙袋をのせる、重さは感じないが紙袋の中でしゃらりと音がする。
「開けていいの?」
「勿論」
テープを丁寧に剥がし、私は紙袋の中を覗く。そこにはワノ国の簪が入っていた。芸者がしているような派手なデザインではないが、ひらりと揺れる飾りが美しい。全て銀で出来たそれは私が着ている藤色の着物との相性も良さそうだ。
「気に入ってくれた?」
「とっても素敵だけど、本当に貰ってもいいの?」
「おれの決意表明」
「決意表明?」
簪を贈る理由はね、あなたを守りますって意味なんだよ、そう言ってサンジは私の手から簪を受け取ると私の髪にそれを挿す。しゃらり、と風に揺れた飾りは私の熱くなった耳朶にそっと触れるのだった。