短編3
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サンジが助けたという芸者はどうやらサンジに惚れたらしい、気付いていないのはサンジ本人だけだ。頬を愛らしく染めて、サンジを見上げるその横顔は恋する乙女という言葉がよく似合う。
「(……あぁ、また)」
サンジの無意識の行動はまた彼女の心を揺さぶり、その頬に色を付ける。鼠じゃなくて気にする所がもっとあるでしょ、と私の方がサンジの行動に口を出してしまいそうになる。だが、実際は遠くから二人を見ているだけだ。口出しなんてすれば、サンジの意識が私から彼女に移ってしまうかもしれないからだ。我ながら嫌な女だ、と思いながら私はロビンの影に隠れる。サンジがこちらに気付く前に逃げてしまおう。私はロビンに一声掛けると歩き辛い裾を器用に捌きながら来た道を足早に戻る。恋人と見知らぬ芸者の戯れなんて見たくなかった、サンジ本人が気付いていなくてもあの子がアクションを起こせば、サンジは断れないだろう。それに声を荒げて怒るなんて芸当はサンジに出来るわけがない。
「心が狭い私が悪いのよね……」
賑わった通りを抜けて、未だに復興が進んでいない人気の少ない通りを進む。だが、歩いている人々の顔は生き生きと輝き、まるで自身とは違う生き物のようだ。
「ナマエちゃん!」
「(……何てタイミングで追いかけて来るのよ)」
下手な笑みを貼り付けたまま、後ろを振り返った私にサンジは必死に言葉を紡ぐ。あの子はおれなんて好きじゃない、ただ助けただけ、今日だって蕎麦を食いに来ただけ、とまるで浮気を疑われた男のような言い訳を繰り返すサンジ。
「もう、いいから」
お店に戻りなさいよ、と私はサンジの背中を押す。このまま一緒にいたら余計な事まで口にしてしまいそうだから。なのに、サンジは私の腕を引いて自身の腕の中に私をしまう。
「何もよくねェ」
君にそんな顔をさせてる時点でおれは浮気したのと変わらねェ、そう言ってサンジは顔を曇らせる。そんな顔をさせたかったわけじゃない、それにサンジは浮気どころか彼女の恋心にすら気付いていなかった。
「……ねぇ、何であの子とは普通にお話出来るの」
「初めて顔を合わせた時、おれのせいで怖がらせちまって……レディ云々の前に人としての礼儀っつーか、申し訳ない気持ちがあって……」
「なら、あの子が恋愛対象になる日はある?」
「君がいるのにかい?ないね」
「とっても可愛い子じゃない、愛嬌だってあって……」
サンジの指がお喋りな私の唇をちょんと突く。
「君しか見えてねェんだよ、おれ」
こう見えて一途だって君は知ってるだろ、とサンジはあの芸者と同じような熱がこもった表情で私の顔を覗き込む。その顔は恋をしている人間の顔だ、偽る事の出来ないその頬の色に私は降参を言い渡す。