短編3
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「月が綺麗ですね」
「月かい?」
サンジは月の一つも出ていない夜空を眺めて、首を傾げる。だが、私の言葉を否定したくないのか目を凝らしたりキョロキョロと視線を動かしてみたりどうにか月を見つけようとする。
「ふふ、違うわよ。月が綺麗ですねって有名な言葉が私の世界にはあったの」
たまたま交わってしまった世界で私は少年誌のスーパーヒーロー達に出会い、ひょんな出来事がキッカケで海賊になった。元の世界じゃ喧嘩すら禄にした事も無い私が海賊だなんて言ったらあちらの世界にいる両親や友人は顔を青褪めさせて必死に止めるだろう。
「どういう意味か聞いても?」
「……サンジはどういう意味だと思う?」
「はは、質問返しを食らっちまった」
サンジは楽しげな表情を浮かべると顎髭を撫でながら、うーん、と真剣に意味を考え出す。
「月はどこから見ても同じだろ、多少の見やすさは状況に左右されるけどさ」
「ん、確かに」
「……だから、おれだったら君と同じ景色を共有したいって意味にするな」
空なら繋がってるしさ、とサンジは雲に隠れた月のように暗がりの中で美しい金髪を揺らす。儚い表情の裏には何を隠しているのか、今だけは気付かないフリをした。
「それで答えは?」
「あなたを愛してる」
「君がいた世界の人間は随分とロマンティックなんだね」
「古い文豪が残したらしいけど真相は分からないの」
サンジはスラックスのポケットに手を入れ、静かな海を眺めながら私にこう問い掛ける。
「……君は誰に言われたの」
「言われた事はないわね」
「………言った事はあるんだ」
「今、言った筈よ」
そう口にすれば、サンジは海面から視線を上げて横に立つ私に視線を移す。次に返ってくる言葉を想像しながら私はサンジの方に顔を向けた。