短編3
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無理、無理無理、と壊れたロボットのように無理以外の語彙を全て捨ててしまったサンジは震えた体を盾にして私の前に立つが普段の頼もしさは鳴りを潜めている。どう見たって今のサンジは私なんかよりも守られる側だ。私はサンジの腕を自身の方に引き、自身よりも身長があるサンジを背中に隠す。そして、波打っている碧眼を見つめて安心させるように笑った。
「目、閉じてて」
「……っ、でも、虫が」
「私、こう見えて強いのよ?」
あなたを守れるぐらいには、そう言って私は腰に引っ掛けていた愛銃を手に取り、私達の行く手を阻む名も知らないカラフルな虫の大群に発砲する。きっと、この光景を見たらサンジは失神してしまうだろう。銃弾がクリーンヒットした虫達は原型を思い出せない有様だ、身体から出た汁で地面を汚している。
「ナマエちゃん……?」
私の言った通りに両手で目を覆っているサンジは不安そうな声で私の名を呼ぶ。
「Mr.ちょっと失礼」
そう一言、断りを入れて私はサンジを抱き上げる。女性に姫抱きなんてされたくないだろうが今はこれが一番の策だ、この虫達の有様を見てトラウマになるよりはまだマシだろう。私は腕の中で騒ぐサンジの声を聞きながらヒョイっと残骸を避ける。
「舌噛みたくなかったら大人しくしてなさい」
「……うっ、もう、嫁にいけねェ」
「婿でも嫁でも貰うのは私なんだし別に気にしないわよ」
それにサンジの格好悪いところなんて一つや二つではない。虫が苦手な事だって二年前から知っている、メリーのキッチンにゴキブリが出た時だってこうやって背中にサンジを隠して、私が退治した。その時はまだサンジとは交際もしておらず、顔を真っ赤にしたサンジに涙目で誰にも言わないで欲しいとお願いされて二人の秘密として片付けたが直ぐにまた似たような場面がやってきて、二人の秘密が皆に知れ渡ってしまった。
「別に虫が苦手でも女に抱っこされてもいいじゃない」
「……情けなくねェ?」
「何でも出来ちゃう人よりそれぐらいの弱点があった方がいいわ」
サンジは私の言葉に何か思う事があったのか、それ以上は何も言わずにコクリと頷いた。大人しくなったサンジを腕に抱いて、先程の場所から遠ざかる。辺りは緑豊かな自然が広がり、あちこちからサンジの天敵が顔を出しそうで油断が出来ない。キョロキョロと辺りを見渡していれば、下から視線が送られてくる。
「目、瞑ってなくていいの?」
「おれの王子様の顔を目に焼き付けてる」
「ふふ、そんな柄じゃないわ」
君の為ならドレスを着てもいいよ、とサンジは戯けるようにそう口にすると私の腕からふわりと抜け出して地面に着地する。
「でも、守られっぱなしのお姫様になる気はねェからさ、虫以外は任せてくれていいよ」
そう言って、サンジは長い脚を草むらから突進してくる何かに思いっきり振るう。サンジが脚を振るった場所には中々の大きさをした野生動物が気を失っている。サンジはポケットに手を突っ込んだまま、野生動物の横にしゃがみこむと満足げに頷く。
「よし、晩飯の具材ゲット」
先程とは別人のようなサンジの勇ましい姿に私は苦笑いを浮かべて、そんなお姫様はごめんよ、と溜め息を溢すのだった。