短編3
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夏が終わり、秋が来て、すぐに寒さは冬の手を握って私達の元に駆けて来た。厚手の上着を着ても露出している首から上が酷く寒い。ぶるりと寒さに体を震わせれば、腰に回されていたサンジの腕に引き寄せられる。二人の距離をゼロにして互いのぬくもりをプラスすれば、一人震えて凍え死ぬような事は無さそうだ。
「寒くねェ?」
「ありがとう、大丈夫よ」
「それなら良かった」
随分と上にある顔を見上げれば、ホッとしたような表情で笑うサンジ。二人の吐き出した息が白くなって空気中に消える。冬の風物詩とでも言えばいいのか、この現象が起こると私は冬の訪れを感じるのだ。
「サンジは今年やり残したことある?」
あと一ヶ月と数日で今年は終わる。そして、何も変わり映えのしない新しい年を迎えるのだ。変わるのは数字と干支ぐらいなのに年末年始と言うだけで騒ぎ立てる理由が分からないと数年前までは思っていたが、今はその理由が少しだけ理解出来る。
「君ともっとキスするべきだった」
「……他」
「もっと、愛してるって言えば良かった」
まだ、一ヶ月あるから巻き返せるかな、と弾んだ声を出すサンジと残りの数十日に怯える私。今年に限らず、サンジは出会った頃から変わらずに私に愛を謳ってくる。
「もう、お腹いっぱいよ」
「愛は料理と一緒だからね、下準備に調理、盛り付け。最後に君の反応が返って来て完成」
相変わらずよく回る口だ、台本が用意されているような口説き文句を素で言えてしまうサンジ。私は冗談めかした口調でサンジにこう返す。
「コックって皆、そうやって女を口説くの?」
「さぁ、どうだろうね」
でも、君の舌に合う愛情をあげられるのはおれだけだよ、とサンジは当然だと言うように足を進める。革靴の音が規則的に鳴る横で私の足は止まる。
「ナマエちゃん?」
「……やり残したこと、私もある」
ブーツを履いた足で地面を蹴るとサンジの背中に勢い良く抱き着く。突然の衝撃にも関わらず、サンジは私を受け止めると私の顔を覗き込んで、ん?と優しい顔をする。
「味の感想」
「感想?」
「……聞きたくない?」
「っ、聞きてェ!」
今すぐにでも、と勢いよく片手を上げるサンジ。周りに人がいなくて良かったと苦笑いを溢しながら、私はやり残したことを実践する。やり残したこと、この曖昧な関係にやっと「恋人」という名前を付けるのだった。