短編3
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にゃあ、と愛らしい鳴き声を響かせながらサンジの周りに集まる猫達。その真ん中にいるサンジは猫じゃらしを振るわけでも身体にマタタビを付けているわけでもないのに身一つで猫ホイホイになっている。私の所に一匹も猫がいない事に気付いたサンジは焦った様子で猫達に声を掛けている。
「お前達も野郎じゃなくてレディがいいだろ……?な?」
「ナマエちゃんは君みたいな白いレディが好きなんだ」
だが、猫達はお構い無しにサンジの黒いスーツに毛を擦り付けながらリラックスした様子で各々自由にサンジをキャットタワーのように扱う。片膝に二匹、もう片膝には三匹。器用に肩から頭にジャンプする一匹、サンジは咄嗟に片手を差し出すと猫の踏み台を作っている。
「っ、ふふ、サンジってプリンセスみたい」
「……プリンスではなく?」
不本意だという顔をしながらサンジは私を見つめる。だが、小さなもふもふ達に囲まれているサンジは童話に出てくるプリンセスと変わらない。プリンセスというには少々、見た目がゴツいが今日に限らずサンジは動物に好かれやすい。小鳥に猫、それとネズミにうさぎ。きっと、動物達は気付いているのだろう。サンジが自分達を傷付けない事も底知れない優しさを持ち合わせている事も野生の勘で分かっているのだろう。私はサンジの膝の上で丸くなっている一匹の猫を撫でる。片目を開けて、ちらりとこちらを見た猫はすぐに興味を失くして眠そうに欠伸をする。その時の猫の顔が面白くて私達は顔を見合わせて笑う。
「いいご身分で」
茶化すようにそう口にしたサンジは猫の顎の下を指で擽りながら、柔らかく目尻を垂らす。目の前に広がった幸せなワンシーンを切り取るように心のシャッターを数回押して記憶という保存場所に大事にしまえば、この幸せが一生続くような気がした。島の猫カフェを堪能した私達は船に戻り、お互いの服に付いた猫の毛に苦笑を浮かべて着替えの為に一度部屋に戻る。終始、キャットタワーになっていたサンジは私の比ではないくらいに全身毛まみれだ。
「アクアリウムバーで待ってるわね」
「あぁ、すぐに行くよ」
着替えが早く終わった私は先にアクアリウムバーに向かい、ソファに座ってサンジを待つ。
すぐに着替えを済ませてアクアリウムバーにやって来たサンジ。先程のスーツとは違って黒いパーカーに白いスキニーパンツというシンプルなコーディネートでやって来たサンジは猫というよりも雌猫の餌食になってしまいそうだ。
「……妬いちゃうわね」
「ん?」
履いていたサンダルを脱ぎ捨てて、私はサンジの膝に頭を乗せ、先程の猫のように体を丸める。寝心地が良いとは言えないが居心地は抜群だ。
「にゃあ」
「っ、くく、なぁに?おれのキティ」
サンジの指先が私の顎を掬い取り、まるで猫に触れるような手付きで顎の下を擽られる。
「ふふ、テクニシャンね」
猫達が骨抜きになるのも納得だ。この手は信用が出来る手だ、撫でられただけでサンジが自身をどう思っているのか直ぐに理解出来てしまう。
「甘えたい気分なのかい?」
「そうって言ったら?」
「奇遇だね、おれも甘やかしたい気分だったんだ」
奇遇も偶然も無い、ここにあるのは私を甘やかすサンジとサンジ限定で愛を強請る雌猫が一匹いるだけだ。