短編3
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その皮膚の下に触りたいと言ったら彼女はどんな顔をするのだろうか、サイコパスを見るような視線を向けられたらサンジの繊細な硝子細工のようなハートは傷付いてしまうだろう。サンジだって直接、心臓に触れたいとは思っていない。それにどこかの死の外科医のように特殊な技で心臓を取り出したいと思っているわけでもない。ただ、彼女自身が持つ彼女の音を直接聞きたいだけだ。トクン、トクンと彼女が鳴らす生きている音に触れたい。尊い音だ、と信じてもいない神に彼女の存在を感謝したくなる時がある。それがサンジにとっては現在(いま)なのだ。
彼女の胸に頭を預けて、耳をすませるサンジ。互いの心音と時間を刻む秒針の音が二人の鼓膜を揺らす。陸に下りた二人は久しぶりに喧騒から遠ざかり、島にある宿で二人ゆったりした時間を過ごしている。今は部屋での朝食を終えて、シャツとスラックスだけを着たような状態でベッドでまどろんでいる。
「飽きない?」
幾度と繰り返される儀式のような行為に彼女は眉を下げて、困ったように笑う。
「うん」
飽きねェよ、一生聞きてェもん、と冗談のような本音を暴露するサンジを彼女だって否定するつもりはない。確かに他人の心音は落ち着く、心細い気持ちに寄り添ってくれるような温かさがある。
「赤ちゃんってね、生まれたばかりでも音が拾えるんですって」
「ばぶ、とか言った方がいいかい?」
「ふふ、悪くないわね」
彼女はそう言ってサンジの金髪を撫でる。昨夜、半乾きのままそういう行為にもつれ込んだせいか普段よりも飛び跳ねたサンジの髪は彼女の指の間からぴょんと顔を出す。
「母胎から明るい所へ出た時の音や胎教の為に聞いた音楽、そういう音の記憶がある子もいるらしいの」
「博識だね、君は」
「ただ、何でも気になってしまうだけよ」
サンジはそのままの体勢から彼女の体に抱き着くと、彼女の音を独占するように体を密着させる。
「……落ち着くんだよなァ」
「音が?」
「何て言葉にしたらいいか分かんねェんだけどさ、ずっと求めてた気がするんだ。この音を」
自身の隙間を埋めてくれるような音だとサンジは言う、パズルのピースがしっかりとはまるような音が彼女から鳴っている。彼女はサンジの背中に腕を回して、その大きな背中をポンポンと叩く。
「相性がいい子って楽器でもあるんですって」
「ブルックかい?」
「えぇ」
彼女は直ぐに恥ずかしそうに目を逸らす。そんな彼女の態度に首を傾げたサンジは顔を覗き込みながら彼女の名前を呼ぶ。
「ナマエちゃん?」
「……さ、サンジ専用の楽器、って思ったら素敵じゃないかしら」
心音が少しだけ早くなる。それに対してサンジは片側の口角を上げてニヤリと意地の悪い笑みを浮かべた。そして、彼女の心臓を皮膚の上から指でトントンと叩く。
「音が先走ってるみてェだけど?」
ちゃんとこのペースに合わせて、と指揮者の真似事のように軽く指を振るうサンジにまた彼女の心音が揺れる。皮膚を突き破ってきそうな胸の高鳴りはまるで愛の叫びのようだ。
「あぁ、悪くねェな」
満足げに彼女の心音を堪能するサンジも彼女の楽器に寄り添うように騒がしい程の心音を奏でるのだった。