短編3
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怒りはとっくに収まっている、それに最初から本気で怒っていたわけではない。ただ、怒ったフリをしたらサンジはどういう対応を取るのか気になっただけだ。ひたすら謝るのか言い返すのか、悪趣味だとは思うが今の私はドッキリ感覚と言えばいいのかこの状況を楽しんでいる。
「もう知らない」
突き放すような台詞を吐いて、サンジの手を払う。いつもやられっぱなしの私が拒否した事に驚いたのか、サンジは払われた手に視線を落として隠れていない片目をまんまるにしている。そして、数回ぱちぱちと瞬きを繰り返すと状況を理解したのか先程までの余裕を投げ捨てて、私のシャツの裾を控えめに握るサンジ。
「……すまねェ、ナマエちゃん」
特徴的なぐるぐるの眉がハの字に下がり、どこか情けない。
「私は嫌って言ったわ」
「嫌よ、嫌よも好きのうちっつーか……」
「へぇ、サンジはずっとそう思ってたのね」
皺になった裾をサンジの手から引き抜いて、私はそっぽを向く。背中側にいるサンジからどんよりとした空気が流れてくるが私はお構い無しでだんまりを決め込む。
「ナマエちゃん……」
「……」
「お、おれ、ちょっと浮かれてたっつーか……君といると駄目なんだ……」
可愛くて我を失っちまう、と背中に縋りつくようにサンジは腕に私を閉じ込めた。
「怒ってるんだけど」
「……怒ってる君も魅力的だけど、怒らせるのは嫌だ」
「面倒臭いから?」
「そのまま嫌われちまったら立ち直れねェ」
もっと可愛い反応を見たくないか、と脳内に住む悪魔が助言を寄越す。欲望に忠実な私はその助言を跳ね除けられそうにない。
「……嫌われたくないなら私の好きなところ五つ言って」
「可愛いお願い事だね」
早く、とらしくない我儘を次々に重ねていってもサンジは一つ一つ丁寧にアクションを返してくれる。今だって指折り数えながら私の好きな所を上げているが片手分はとっくに過ぎている。
「怒ったフリも可愛いところ」
「……へ」
「おれが気付かねェって思ってるところも可愛い」
それに、簡単に捕まっちまうところも好きだよ、とサンジは私の腰を引き寄せて先程よりも強い力で私に抱き着く。
「さっきのは演技だったって事?」
「……演技なんかじゃねェよ」
右の肩に体重が乗り、サンジの金色の毛先が首を撫でる。ちゃんと悲しかった、そう言ってサンジは甘えるように頭をグリグリと肩に押し付けてくる。
「必死なサンジが可愛くて、つい……。ごめんなさい、サンジ」
「……五つ、いや……三つ、おれの好きなところ教えて」
そしたら許してあげる、とサンジは随分と甘い条件を出してくる。
「三つも無いわよ」
「うぅ……っ」
うるっと揺れたサンジの碧眼に映った私の顔は反省をするどころか、また意地の悪い表情を浮かべていた。脳内に住む悪魔の囁きに一つ頷くと私は最後にこう口にするのだった。全部を気に入っているの、と。