短編3
name
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
浮気者、とキッと三白眼を細めてハンカチを噛むサンジ。何の真似だ、と言いたげな彼女の白けた視線がサンジの心の柔らかい部分に深く突き刺さる。だが、ここで折れるわけにはいかないとサンジは彼女を指差して再度、浮気者と叫ぶ。
「ほら、その飯!」
「ただのサンドイッチよ?」
下り立った島のパン屋で買ったサンドイッチ。三角に切られた食パンの間にはたっぷりと具材が挟まれ、彼女の小さな一口では具材にまで到達しなさそうだ。サンジが作るレディへの配慮が行き届いた数口サイズのサンドイッチと並べたら相当な大きさだろう。
「おれじゃねェ野郎が作った飯と浮気した!」
「レディだったらどうするの?」
「……これは野郎が作った匂いがする」
クンクンと鼻を鳴らすサンジはまるで探知犬だ、そういう所ばかりが特化されたサンジの体に疑問を持つどころか笑ってしまう彼女。
「っ、ふふ、便利な鼻ね」
皿にサンドイッチを置き、彼女はウェットティッシュで手を拭くと綺麗になった手でサンジの鼻先をツンと突く。サンジは犬のようにしゃがみこんだまま、彼女を見上げる。クゥン、と聞こえるのは空耳だろうか。
「……おれの飯とどっちが美味い?」
顎に手を当ててわざと悩ましい表情を浮かべる彼女の中では最初から答えは決まり切っている。
「サンジに勝てる人なんて知らないわ」
勿論、心がこもった料理は美味しい。目の前のサンドイッチだってそうだ。だが、特別だと思えるのはサンジの手間暇が掛かった料理だけだ。
「あと数年もしたら私の故郷の味は変わってしまうと思うの」
「……えっと、どういう意味かな?」
「あなたの味に慣れ親しんだって事」
島に下りて外食をしても、サンジが作る料理の方が……と勝手に比べてはガッカリする事が増えた。今日だってサンジが船に残らないと言っていたから彼女は当たり外れの無いサンドイッチを買って来ただけだ。
「……心は掴めねェからさ、胃袋だけでも掴んどきてェんだ」
「その言い方、私じゃなかったら勘違いしちゃうわよ」
彼女はいつもの口説き文句と受け取ったのかサンジの言葉を軽く流す。だが、サンジはそんな彼女の反応に怒りをあらわす事もなく静かに口元を緩めた。
「料理だけでいいからさ、おれを一番にして」
「……ねぇ、それって」
「ちゃんと弁えてるからさ、無理にどうにかなろうとも思ってねェよ」
自分自身に言い聞かせるようにサンジはそう口にする。だが、それを許してくれないのが彼女だ。勝手に諦めようとするサンジの頬に両手を添えて、パチンと音が鳴るぐらい勢い良く頬を挟む彼女。
「胃袋以外も掴んだ責任取ってくれないの?」
「は!?」
飛び出してしまいそうなサンジのまんまるな瞳を見つめながら、彼女はサンジの胸を指差す。
「温かい料理は人の心まで変えてしまうわ」
「……おれの料理は君をどう変えた?」
サンジの手が彼女の頬に伸び、輪郭をなぞる。そして、サンジの手の上に自身の手を重ねる彼女。
「良い方向に」
私にとってもあなたにとっても、そう言って彼女はサンジの次の言葉を待つ。サンジのもう一声をトッピングしたら、きっとこの恋も仕上がるだろう、と。