短編3
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鬱陶しいと弾いた手は思いの外、熱かった。普段と同じ表情で普段と同じような薄っぺらい愛を叫ぶサンジ。ヘラヘラとした謝罪に怒った顔も可愛いと火に油を注ぐ発言も全て軽くて、重しが無ければ直ぐに飛ばされてしまいそうだ。
「手のひらの温度は嘘がつけないみたい」
「温度?」
「あなたの言葉は薄っぺらくて薄情って事よ」
いつだって愛の言葉は嘘つきだ、この男も私を振ったあの男も口だけが達者で中身はスカスカだ。
「君に届くにはまだまだ先ってだけだよ」
「勝手にして」
冷え切った私のテンションとサンジの火傷してしまいそうなポジティブは相性が悪い。組み合わせるな、危険、と注意書きを出した方がいいとすら思える。なのに、私から呼び出している時点で終わっている。私は手元のグラスを口に運ぶと酒に逃げるようにペースを早める。
「勝手にするよ」
そう口にするとサンジはグラスを掲げ、君との夜に、と馬鹿げた音頭を取り、私のグラスに自身のグラスをぶつけた。
早く酔ってしまえ、と暗示を自分自身に掛けたところで酔いたい時ほど酒の回りが遅い。私に付き合ってペースを上げたサンジの方が先に潰れ、皿と皿に挟まれて金髪が突っ伏している。
「何が君との夜によ……」
先に潰れちゃ意味が無いでしょ、と目の前の無防備な頭を軽く叩く。
「ん」
くぐもった声を出しながらサンジはモゾモゾと身体を動かす。そして、自身の頭に乗っていた私の手をギュッと抱き締めて眠りにつこうとする。
「……ナマエ、ちゃん、だいすき」
「勝手に夢に出さないで、出演料取るわよ」
「なぁに、金払ったら出てくれるの?」
やったぁ、と寝惚けた声を出しながらサンジは私との会話を続行させる。それどころか自身の尻ポケットに入っている財布をまるごと渡してくる始末だ。
「これなら二人とも寂しくねェだろ」
「……いつ呼んでも暇してるものね、あなた」
「ふは、おれが何で来るか知ってる?」
「暇人で寂しい人だから」
酷い言い草だ、分厚いプライドが優しさを拒む様に何重にも重なってサンジを拒絶してしまう。
「君に会いてェからだよ」
難しい理由も君より優先してェ人間もいねェ、ただ、好きな人に会いに来てんの、おれ、そう言ってサンジは満足したような顔をして私の腕を抱きしたまま再度眠りの海に沈む。
「言い逃げにも程があるでしょ」
酔いがやっと回ってきたのかもしれない、薄っぺらくて重しが無ければ飛ばされてしまいそうなサンジのどうしようもない言葉にらしくもなく動揺している私がいるのだ。きっと、アルコールのせいだ、と自身に言い聞かせてソファの上に置いてあるブランケットに手を伸ばす。そして、気持ち良さそうに寝息を立てるサンジにブランケットを掛ける。
「……寂しくないし、別に」
サンジの肩に寄り添うように私は目を閉じる、酔っ払いの口と行動はいつだって噛み合わない。ただ、今はこうしていたかった。