短編3
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その体を華奢だと感じた事は無い、ただ人間離れした連中の中にいると甘い顔立ちも相俟って可愛らしく見えてしまうのは仕方ない事だ。出会ってから二年が経ち、サンジの体は随分と分厚くなった。スラリとした手足にはしっかりと筋肉がつき、スーツの下には立派な体が隠れている。髭だって濃くなり、サンジの目指すダンディな男に一歩とは言わずに数歩は近付いたように見える。
「サンジってちゃんと男だったのね」
ベッドの端に座って煙草の煙を燻らせるサンジ、パンツにシャツを羽織っただけのその姿はやけに色気がある。視線がゆるりとこちらに向けられ、くつくつと喉を鳴らして笑うサンジ。
「なぁに、女の子に見えてた?」
隅々まで見せたのに、とわざとシャツをはだけさせるサンジの肩や背中には私が無意識につけた爪の痕が広がっている。その痕が何だか気恥ずかしくてサンジの広い背中に枕を投げ付けるが当たるどころかサンジは軽々とキャッチする。
「散々抱き潰したのにタフだこと」
「……煩いわよ」
サンジは灰皿に短くなった煙草を押し付けるとこちらに寄ってくる。そして、私に覆い被さって戯れつくようにキスを降らせてくる。サンジのキスは犬が飼い主の顔面をペロペロと舐めてくるようなものだ、と余裕をかましていた過去の私に目の前の男の急成長を見せたい。
「……可愛かったサンジを返して」
「今だってこんなに可愛いのに?」
口元に人差し指を当てて、きゅるんと効果音がつきそうな表情を私に向けてくるサンジ。
「詐欺師みたい」
「酷ェ、こんな善良な人間なのに」
背中を軽く浮かせてサンジの首に腕を回す。そして、その嘘つきな口に自身の唇を寄せて蓋をする。煙草の苦味にも段々と慣れてきて、舌に残るこの味をサンジとの味だと思えるようになった。私達のキスはレモン味ではなく、ビターな煙草の味がする。
「……可愛さに騙されてあげたのに」
「っ、くく、返品は受け付けてねェよ」
サンジは私の顎を指で掬うと垂れた金髪の隙間から両目を覗かせて自信に満ち溢れた顔でこう口にする。
「それにさ、君に可愛いって磨き上げられたおれが可愛くねェ筈ある?ねェよな」
その顔は生意気でやはり可愛くない、以前の自己肯定感の低さはどこに行ってしまったのかと問い詰めたくなる。先程、サンジに投げ付けた枕を手に取ると目の前の可愛くない恋人の顔面に押し付ける。枕の向こうから溢れたサンジの情けない声を聞きながら、私はサンジの格好良さに気付かないフリを続けるのだった。