短編3
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普段は自身だけで買い出しに出るサンジ。だが、今日の買い出しには恋人である彼女が同行を申し出てきた。幸いにも重い物を買う予定もなく、女性に荷物を持たせるような情けない失態だって起きてはいない。なのに、隣から浴びせられる彼女からの視線は中々に鋭い。喧嘩もしていなければ、怒らせてしまうような事もしていない。それに彼女の視線からは怒りは感じられない、ただ、自身を見張っているような居心地の悪さがある。恋人を放って島のレディにうつつを抜かすとでも思われているのか、繋いだ手は普段よりも力が込められて少々痛いくらいだった。
「あー、ナマエちゃん、ちょっと緩めて貰ってもいいかい?」
サンジがそう言って、繋いだ方の手を軽く浮かせば、彼女はハッとしたようにサンジの手を離す。そして、自身の指の痕が薄く付いてしまったサンジの手を優しく擦ると謝罪の言葉を口にする彼女。
「……私ったら、ごめんなさい」
「んーん、気にしねェで」
君の強ェ愛情も愛しいから、とサンジは手をひらひらと振って悲しそうに地面に視線を落とす彼女の顔を覗き込む。
「でも、今日の君の様子はちょっと気になるなァ」
「……誤魔化されては?」
「くれねェなァ」
サンジは荷物を地面に置くと両手で彼女の頬を挟む。君がこういう顔をしている時は無視しちゃいけねェんだ、と口にするサンジ。その表情に彼女の強張った心が緩やかに解けていく。
「……ただの買い出しってちゃんと分かってるの」
「うん」
「でも、目を離したらまた貴方を見失ってしまいそうになる」
それがとっても怖いの、そう言って彼女は自身の着ているワンピースの裾をギュッと握り締めて皺を作る。キツく結んだ唇はやけに痛々しい。
「おれはもう選択を誤ったりしねェよ」
ちゃんと君の腕の中に帰れる、とサンジは自身の腕に彼女の細い体を招き入れる。
「逆じゃない?」
「今は君の方が迷子みてェだから」
「……そうかもしれない」
「だけど、大丈夫。君が迷子になってもおれが探すよ、地球の裏側でも海底でも君を迎えに行く」
冗談でしょ、と見上げた先にあったサンジの顔は嘘や冗談を吐いている表情では無かった。目尻を垂らして穏やかに微笑むその姿に迷いは無く、彼女の憂いを拭うには十分だった。
「繋いでて、お互いを見失わないように」
「言われなくてもそうするつもりさ」
指先を絡めて、握り合った手は先程よりもお互いを求めていた。痛いね、痛ェね、と重なった笑い声と赤くなった手。歩幅を合わせて進む先には仲間達が待っている、迷子の二人の帰りをサニー号でのんびりと。