短編3
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私が一方的に拗ねているだけだ、レディ限定で温厚なサンジは先程から自身の非を侘びているし元々の理由を辿れば、大した理由ではない。ただ、私が大人げないだけだ。火を上手く鎮火出来ずに内にまだ熱を残したまま、日付を跨ごうとしている。
「こっちからこっちは私の陣地だから」
シーツの半分に爪で縦線を引く。そして、子供みたいな台詞を吐いてサンジに背中を向ける。目覚めた時にはギュッと一つになってしまいそうだった二人の体が夜になれば簡単に離れてしまうのだからやるせない。背後から聞こえるシーツの擦れる音がやけに暗い部屋に響く。
「……なァ、ナマエちゃん」
「何」
「手だけそっちの陣地に入っていいかい?」
私の返事を待っている間、サンジは私に触れては来ない。言い付けを守るように自身の陣地の中で私の背中を見つめているのだろう。
「……手だけなら」
「よっしゃ、なら次は足?」
手を許せば、直ぐに私の腰にサンジの長い腕が伸びてくる。一方的にイラついていた事も忘れて、サンジの言葉につい笑ってしまう。
「ふふ、何それ」
「交渉だよ、交渉」
寝返りを打ってサンジの方に体を向ければ、捨てられた子犬のような顔をしたサンジと視線がぶつかる。
「何て顔してるのよ」
先程、自身が発した言葉を無視してサンジの陣地に飛び込む。今すぐにでも泣き出してしまいそうなサンジの頬に手を伸ばせば、頬を摺り寄せて手の平にキスをしてくる。
「……喧嘩したまま寝たくねェ」
「喧嘩っていうか、私が勝手に拗ねてただけよ……」
サンジは何も悪くない、私が勝手に大袈裟に騒ぎ立てているだけだ。なのに、サンジは己に全ての非があると言わんばかりに先回りをして私に謝罪を寄越した。それがまた私の神経を逆撫でして今の状況が生まれている。いつも、サンジは私の怒りやくだらない嫉妬を許して受け止めてくれる。
「いや、君は悪くねェよ」
「……何でいつも責めてくれないの、おれは悪くねェって怒ればいいのに」
「その口調、おれの真似?」
かわいい、とサンジはベッドに寝転んだまま私のむくれた顔を両手で捏ねる。
「かわいいけどさ、レディには笑ってて欲しいな」
「サンジが怒ったら笑うわ」
「っ、くく、ドMかよ」
顔を顰めてサンジを睨めば、またお得意のごめんが返ってくる。私が欲しいのは謝罪ではなく対等さだ、片方ばかりが我慢していたって良い結果にはならない。いつか、必ず我慢の限界が来る。
「おれさ、別に我慢してねェよ」
言いてェ事はちゃんと伝えてるつもり、そう言ってサンジは私を腕にしまい込み、私の頭を顎置きにする。
「……言われた事ないわ」
「毎日言いてェから言ってるよ」
「?」
「どんな君でも好きだって」
怒ってる君だって拗ねてる君だって好きだ、今もむくれてる君にメロメロだよ、とサンジは場違いな甘い声を出す。こんな事を言われたら何も言えなくなってしまう、声を荒げたって唇を尖らせたってサンジの愛を深めてしまうだけでサンジの怒りに火を点ける事は出来ないらしい。
「それに君は自分を大切に出来る」
「どういう意味?」
「君が自分自身を蔑ろにしたり傷付けたりしたら、おれだって怒るよ。君を泣かせちまうかもね」
あなたらしい、とサンジの鍛えられた胸板に頭を預けて口元を隠して笑えば、私の笑みに釣られるようにサンジも喉を鳴らして笑う。
「傷付くレディを見るのは胸が痛くて駄目だ、恋人なら尚更ね」
「……私も傷付く恋人は見たくないの」
だから、陣地は無し、と仰向けになったサンジの体の上に乗っかり体を密着させる。
「交渉は成功かな?」
「あなたの甘さが移ったのかもね」
「君は仲直りの定番って言ったら何だと思う?」
どうせ、これでしょ、とサンジの唇を奪えばニンマリと弧を描いた唇が正解だと教えてくれる。明日の朝もきっとゼロ距離で朝を迎えるのだろう。暑苦しく巻き付いた長い腕に包まれる至福の朝が今なら待ち遠しく思えた。