短編3
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「君が謝るまで口を利かない」
その宣言通り、サンジは私と話さない。だが、変わったのはサンジが声を発さなくなった事だけだ。私が話す分にはいいのか、サンジは私の言葉にオーバーリアクションを返してくれるし十五時になればお菓子と紅茶が普段通り運ばれて来る。朝昼晩とは言わず、喧嘩前と同じように四六時中贈られる熱い視線にキス。気付けば私に纏わり付くように伸びてくる腕。
「……喧嘩ってこういうものだったかしら」
今、私が座っているのは椅子でも床でもない。座り心地があまり良くないサンジの太腿に腰掛けて何故か猫のように後頭部を吸われている。遠い目をしてされるがままになっている私はここ数日のサンジの奇行まがいの反抗の意味を理解出来ていない。確かに喧嘩はした、サンジの優しい注意を突っぱねて先にキツい言い方をしたのは私だった。見事に私はサンジの地雷を踏み抜き、サンジの怒りを買った。そして、冒頭の口を利かない宣言だ。宣言された直後は私だって多少は焦った、普段温厚なサンジが私を拒絶するような態度を取る事なんて今まで無かったからだ。どうしよう、どうしようと頭を悩ませているうちに、この奇行とも呼べるサンジの行動が始まった。
「まだ怒ってる?」
背後からの重みが増して、サンジの金髪が肩をなでる。怒ってるよ、という意思表示なのかは分からないが未だにサンジの声は返ってこない。口煩いと思っていたサンジが数日話さないだけで私の周りは随分と静かになる。静かさを欲していた筈なのに、この静寂がやけに気になって仕方ない。勿論、嫌という意味でだ。
「……悪ィと思ってるならキスして」
サンジの第一声はこれだった。腰に回っていた腕が先程よりもキツくなり、キスをしないという選択肢も仲直りをしないという選択も無くなったようだ。
「悪ィと思ってるなら唇に」
悪くねェと思ってるなら頬に、という二択を提示してきたサンジは自身の唇と頬を空いた手で指差す。
「あなたがキスしたいだけじゃない」
「言い合うより平和的だろ?」
君にあれ以上言われたらおれの心臓は止まっちまうよ、とサンジは茶化すようにそう口にした。だが、その表情はサンジの言葉が冗談でも嘘でもない事を私に伝えてくる。
「……蘇生するなら、こっちかしら」
サンジの頬に手を添えて、ごめんなさいのキスをする。中々、素直に謝る事が出来ない私はこうやってサンジの優しさに最後まで甘えてしまうのだ。
「君と話さない間、おれが何を考えていたか分かるかい?」
「……私に苛々してた?」
「逆だよ、逆」
言えねェ分の好きが溢れちまいそうだった、とサンジは言う。喧嘩をしていたのか疑ってしまうぐらいに降り続ける無言のキスも愛してると叫ぶように爛々とした瞳もオーバーなジェスチャーもサンジにとっては物足りなかったようだ。
「愛は口に出さなきゃ駄目だね」
「今から何日分の愛を口にするつもり?」
「君が意地を張った日数分かな」
なんてね、と言葉を付け加えたサンジはまた賑やかなサンジに戻った。今はこの止まる事を知らない愛の言葉がただ恋しかった。