短編3
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その顔からヒョイっと眼鏡を拝借し、自身の顔に装着する。ぼんやりと色の着いた眼鏡は度が入っておらず、揺れる視界に酔う事も無い。
「伊達眼鏡って邪魔じゃない?」
サンジの繰り出す技を思い浮かべながら私は眼鏡のつるを触る。足技と言ったってサンジはアクロバットをするように全身を動かす、手を使わないだけでその他の部分はお構い無しだ。
「知的な男はモテるからね」
「今の発言が馬鹿っぽい」
「おれは形から入るタイプなの」
頬杖をついたまま、サンジは空いた手で私から眼鏡を没収する。そして、またその美しい碧眼を黄み掛かったレンズで隠してしまう。
「おれの眼鏡姿って別に珍しくねェと思うんだけど……」
サンジの言う通り初めて見たワケでも無ければ、物珍しいワケでも無い。デートに着けてきた事だって勿論ある、それにキッチンでかけている姿だって何度も見た事がある。
「サンジの見えている世界が気になったの」
度が入っていないレンズだ、只のレンズ一枚で何かが変わるだなんて勿論思っていない。
「同じ景色を共有してェ的な?」
「そうよ、可愛い願望でしょ?」
「あァ、可愛すぎて参っちまうよ」
サンジは空いた手で私の髪をくしゃりと撫でる、私はその手に擦り寄るように体を前に乗り出した。
「景色を共有してェナマエちゃんに一番いい方法を教えてあげる」
「ふふ、どんな方法?」
それはね、とわざと勿体ぶったような言い方をするサンジはエンターテイナーだ。私の心を弾ませる天才とでも言えばいいのか、こういう時のサンジはいつも狡くて勝てる気がしない。
「鏡を見ておいで、手鏡でも風呂場の鏡でも種類は問わねェよ」
「鏡?」
ヒントにしても答えにしても言葉足らずなサンジの返答に私は首を傾げながら聞き返す事しか出来ない。
「おれが見てる景色を見てェんだろ?」
「えぇ」
「なら、君の顔をじっくり見ておいで」
そうすれば、おれの見ている景色が分かるから、とサンジは私の輪郭に指を滑らせる。
「口が上手いんだから」
「っ、くく、冗談でもおべっかでもねェよ」
サンジはそう言って眼鏡を外すと片方の瞳の中に私を映す、海と表現するにはもっと複雑な色をした碧眼の中で私は何とも言えない間抜け面を晒している。
「見惚れちまう程の景色さ」
「……度が入った眼鏡が必要じゃない?」
「この距離じゃ眼鏡も必要ねェよ、レディ」
コツンと合わさった額、一枚のレンズすら私達の間には入れそうに無い。粗すら見えてしまいそうな距離でもサンジは目を逸らす事なく、愛おしげに私を見つめるのだった。