短編3
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こんな冷えた日には恋人のぬくもりが欲しい、そう言って彼女は冷えた指先をサンジの部屋着のパーカーの中に忍び込ませる。
「ひゃ」
まるで素肌に氷を落とされたような冷たさにサンジは情けない声を上げる。だが、彼女はそんなサンジの反応をスルーしてパーカーの中にもぞもぞと侵入を試みる。サンジの部屋着のパーカーの前がだらしなく弛んでいるのは彼女のこの行動が原因だ。まるでコアラのようにサンジの体にぎゅっと手足を巻き付けて、サンジの匂いに包まれているこの空間が彼女のお気に入りなのだ。すぐにサンジの腕が回り、ポンポンと規則的に背中を叩かれる。サンジはそんな彼女を注意するどころか文句の一つも言わずにとろんと垂れ下がった彼女の瞼にキスを落とす。
「寝ちゃうから、だめ」
そう言いつつも彼女の意識はもう眠りに片足を突っ込んでいるような状況だ。くっついてきた時点で先の展開は読めている。それに人間の三大欲求である食欲・性欲・睡眠欲の睡眠欲に欲求の度合いが異常な程に傾いている彼女の邪魔をしようだなんて思っていない。
「ちゃんとベッドに運ぶから大丈夫だよ」
まだ、お話したい、そう言って閉じ掛けている瞼を根性だけで押し上げる彼女。元々あった二重幅が広がり、彼女の瞼がまた重くなる。以前の彼女だったらサンジが話していても気にせずに寝息を立て、すやすやと夢の中に旅立っていた筈だ。なのに、最近の彼女は訪れる眠気に抗うようにサンジとの時間を大切にしてくれている。
「……考え事してる?」
「君の事だよ」
頭にポンポンと侵入してくる考えも思いつきも全て彼女絡みでサンジは小さく喉を鳴らして笑う、彼女は突然のサンジの笑いに首を傾げるがサンジは笑みの理由を語ろうとはしなかった。
未だ眠気に堪えている彼女の体を赤子をあやすかのようにゆらゆらと揺らしながらサンジはテレビの音量を最小にする。そして、画面に映る明日の天気予報を口にする。
「明日、寒ィって」
「眠くなっちゃうから嫌だなぁ」
「寒ィ方が都合が良いんだよな」
「都合?」
寒がりなレディがくっついてくれるからね、とサンジはパーカーから飛び出た彼女の顔にキスをする。
「……私の湯たんぽだもん」
「温めも充電もいらねェから長く使ってね、レディ」
戯れ付くようなキスが止み、サンジの口からはお馴染みの子守唄が流れる。サンジのぬくもりに顔を埋めたまま彼女は重たい瞼を閉じる。おやすみ、の代わりに口にしたサンジの名前は眠りと一緒に溶けていった。