短編3
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「サンジは好きな人っているの」
のんびりした口調で明日の天気を尋ねるようにサンジに問い掛ける彼女は正真正銘、サンジの彼女である。自身の頭よりも高い位置にあるサンジの肩に寄り掛かったまま彼女は足を揺らす。そんな彼女の体を引き寄せて、サンジは彼女の額にコツンと自身の額を合わせる。そして、困ったような笑みを浮かべながらこう口にした。
「君がいちばん分かってる筈じゃねェかな?」
「ふふ、誰かしら」
わざとらしく分からないフリを続ける彼女は相変わらずの小悪魔だ、ハロウィンも終わったというのにサンジはこの魔性な恋人の手のひらでくるくるとバレリーナのように踊らされる。サンジの腕の中でくすくすと擽ったそうに笑う彼女はサンジの腕の中から逃げようと身を攀じる。だが、踊らされてばかりではいられないと意気込むサンジの手によって彼女の逃走は失敗に終わる。
「なら、分からせてあげようか?」
君が世界でいちばん大事だって、そう言うとサンジは彼女の腰に回していた腕をシャツの中に忍ばせる。ひんやりとしたサンジの大きな手が彼女の薄い腹を撫でる。そして、徐々に手の行き先が不穏になっていく。
「もう、そういう気分じゃないわ」
サンジの手をパチンと遠慮無く叩き落とす彼女の声色に強い拒絶の色は見られない。嫌なら突き飛ばしてくれていいよ、そう言ってサンジは彼女の控えめな胸に触れる。
「まずはおっぱいかな」
「何がまずなのよ」
「君に好きを伝えたくて」
「なら、順番違いね」
別に大きくもないし、と彼女は少しだけ居心地が悪そうな顔をしてサンジの好きを否定する。だが、サンジにしてみたら大きさなんて正直どうでもいい。付き合う前は大きければ大きいほどいい、スイカなどの果物のように実がパンパンなら尚更と失礼な事を考えていた事もあるが今のサンジは誰についているか、相性がいいか、特に前者が重要だとすら思っている。大きさが全てじゃない、と言った所で彼女のコンプレックスが消えるわけではない事を理解しているサンジは彼女の耳元に口を寄せると一言こう口にした。
「おれは好きだよ」
「つ、次!次に行きなさいよ!」
彼女は気恥ずかしさから自棄になって声を張り上げる。
「すぐに薔薇色になる頬が愛しい」
「……薔薇色」
「素直じゃねェその愛らしい口も大好き」
「素直じゃない」
「おれに案外、弱ェとこも可愛い」
復唱するように彼女は小さな声でサンジの言葉をなぞる。赤面症なところも可愛くない事ばかり言ってしまう口もこうやってサンジを振り回そうとして気付いたらやり返されてしまっているチョロさも彼女にとっては欠点でしかない。
「その吊った瞳に見られるとゾクゾクしちまう」
「……全部、欠点じゃない」
睨んでいるように見える瞳はキツく見えて彼女としてもレディとしてもマイナス判定だろう。なのに、サンジは先程から彼女自身が思う欠点を愛を語るようにスラスラと話す。私は大嫌いよ、そう否定しようとした口はサンジの唇によって封じられてしまった。
「んっ……」
「これだけは君にも否定されたくねェ」
サンジの顔から柔らかい笑みが消えて、スッと碧眼が細められる。普段の蜜のように甘い穏やかなサンジに慣れている彼女は突然のサンジの変化に背筋を伸ばし、視線を彷徨わせる。
「怒らせた……?」
「いーや、怒ってねェよ?」
ただ、分からせてるのさ、そう言ってサンジは彼女の体をソファに押し倒す。へ、と気の抜けたような声を出す彼女に覆い被さるサンジ。
「誰かしら、なんて言えねェようにしねェとね」
「やっぱり怒ってるじゃない」
「怒ってない」
「怒ってる」
そんな決着のつかないやり取りを交わす二人。お喋りはここまでだよ、レディ、と言わんばかりにサンジの手が彼女の細い手首をまとめてソファに固定する。
「……おれの大事なもんって自覚が足りねェのはやっぱ苛つく、かも」
その言葉の続きはサンジの熱い唇によって伝えられる。彼女はぎゅっと目を瞑り、サンジの深い愛情に溺れるのだった。