短編3
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「サンジって無口よね」
「……あんたが言ってるのってあのサンジくん?」
「うふふ、同じ船に乗ってるサンジくんよ」
ナミの指した先には洗濯物を回収しているサンジがいる、大きなカゴを片手で支えながら片手にはいつも通り煙草が挟んである。スーツを着た長身はスラリとしていて身のこなしもスマートだ、それにセクシーな低音はいつも穏やかに言葉を紡ぐ。船のブレーンでもあるサンジは学が無いと言いながらも時にハッとする事実に辿り着いたりする。
「……あのサンジくんが無口?正気?」
「あの?」
「あんただって麗しのレディやら恋はハリケーンだの言われてるでしょ」
「……それこそ私の知ってるサンジ?」
私が知ってるサンジはあまり喋らない、二人っきりになると私ばかりが喋っている。サンジは柔らかな笑みを浮かべたまま相槌を打ち、私のオチの無い話を中断させたりせずに最後まで聞いてくれる。以前にサンジに尋ねた事がある。私ばかりが話してつまらなくないか、と。
『おれさ、あんまり喋るの上手くねェから君が沢山話してくれると嬉しいんだ』
『嬉しい?』
『仲良しみたいで』
嬉しい、と繋がれた小指は少しだけ震えていた。緊張のせいか中々視線は合わなかったが、その初々しい触れ合いが少しだけ擽ったかった。
「……本当のサンジはどっちなのかしら」
「本当も嘘も無いんじゃない?」
サンジくんはレディに嘘をつけるほど利口じゃないわよ、とナミは肩を竦める。そんなナミにモヤっとしたのは仲良しの友人を取られてしまったという嫉妬心か、それとも見て見ぬフリをしている感情のせいか、私はナミに曖昧な笑みを返す事しか出来なかった。
考えれば考える程、何を話していいか分からなくなる。私が話さなければサンジと私の間には気まずい沈黙が永遠に流れる事になる。今がまさにそうだ、黙り込む私と不安そうなサンジが食後のキッチンに取り残されたまま、お互いの出方を探るように視線だけを彷徨わせている。この状況に堪え兼ねた私は椅子から立ち上がり、キッチンの扉に手を掛ける。だが、私の腕はサンジの大きな手に掴まり、キッチンからの逃走に失敗した。
「……ナマエちゃん」
「なぁに」
普段のように振る舞ったつもりだがサンジからしたら違和感でもあったのだろうか、サンジは特徴的な眉毛をハの字にして私の正面に回り込んだ。
「おれ、何かしちまったかな……?」
「何の事かしら?」
「とぼけねェで、ナマエちゃん」
「……いつもよりお喋りね」
私がそう口にすれば、サンジは片目を見開き驚いたような顔をする。そして、私の腕から手を離して自身の両手を絡めたり指先をいじったり落ち着き無く手遊びを始める。
「……君の前だと上手く喋れねェんだ、それに口を開いたら余計な事まで言っちまいそうになる」
「ナミが羨ましい」
「へ」
「……サンジが無口って言ったら笑われちゃったわ、本当のあなたはお喋りなんですってね」
麗しのレディなんて私は言われた事なんてないもの、と私は諦めたように首を小さく横に振る。
「好きだから何を話していいか分からねェんだ」
「……」
「洒落た口説き文句の一つも言えねェ男に成り下がっちまう……っ、君に見惚れちまって駄目なんだ」
見上げた先にあるサンジの顔は真っ赤に染まっていた。私の視線に気付いたサンジは両腕で自身の顔を隠すが、腕からはみ出た耳がサンジの赤面をバラしてしまう。
「下手な言葉でも私は聞きたいわ、あなたの言葉なら何でも聞きたいの」
「……君が好き過ぎて辛い」
そう言って、床に崩れてしまったサンジは今までの無口が嘘だったかのように私への恋心を必死に並べ出すのだった。