短編3
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賑やかな誕生日パーティーはある程度の時間で解散になった。食器の後片付けは主役自ら名乗り出た為、任せる事にしたがそれ以外は各自が片付けをする事になった。ナミやロビンに背中を押された私はテーブルに残っていた食器を持ち、サンジの背中を追う。キッチンの扉を開ければ、その音に気付いたサンジがこちらを振り返る。
「食器拭きに雇ってくれない?」
「はは、日給でいいかい?」
「誕生日だからタダで良いわよ」
そんな軽口を叩きながらシンクに食器を置いて、サンジから手渡されたお皿の水気を布巾で拭き、種類別に片していく。聞こえるのはシンクを叩く水の音だけだ、二人に会話は無い。その沈黙は気まずいものではなく、心地の良い沈黙だ。
最後のひと皿を洗い終えたサンジは私にお皿を手渡すと感謝を口にする。
「ありがとう、レディ」
「食器拭きなんて誰でも出来るわよ」
「でも、助かったのは本当だよ」
今日の主役は相変わらず人がいい、誕生日なんだから我儘の一つでも言ってくれればいいのに我儘どころか他人に感謝してばかりだ。宴の最中だってそれは変わらない。普段通りにご馳走を作り、給仕の仕事を完璧にこなしていたサンジ。主役だというのに座っていたのは最初の数分だけだ。
「なら、オマケでもう一つ」
「ん?」
「サンジの我儘を一つ聞いてあげる」
私が叶えられる範囲なら何でも叶えてあげたいと思う。無理難題を投げられても一瞬でも希望が見えるのなら私はきっとそれを叶えたくなる。仲間としても、恋人としてもだ。
「プレゼントはもう貰ったよ?」
「あれは仲間の私からよ」
「っ、くく、恋人の君からは何が貰えるのかな?」
それはサンジ次第かしら、と私は惚けた回答を寄越してサンジの我儘をどうにか引き出そうとする。こちらの自己満足のプレゼントではなく、サンジ自身が望むものをあげたい。
「あと二時間」
「二時間?」
「今日の残りの時間、全部おれにちょうだい」
勿論、二人っきりで、そう言ってサンジは私の腰を引き寄せる。多少の下心が見え隠れするサンジの甘やかな声に意識が向く。するり、とサンジの長い指が耳の輪郭をゆっくりとなぞる。
「二時間も何をするつもりなのかしら」
「充電」
君でいっぱいにして、と体を屈ませて私の下唇に歯を立てるサンジ。どんな充電をするつもりなのか、と怪しむつもりもない。
「ふふ、サンジにあげる」
主役へのプレゼントはリボンなんて洒落た装飾もない自分自身。甘えるようにサンジの太い首に腕を回して自身の全てを委ねるのだ。
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