短編3
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「サンジくんお話があります」
「は、エッ……?」
普段の私はサンジをサンジくんだなんて呼ばない、随分と前に敬称なんて捨ててしまった。それにこんな堅い声を出したりしない、呼ばれた本人は既に説教を受ける準備が出来ていると言いたげな表情で背筋をピンと伸ばして、私の前に正座をする。そして、仁王立ちをしている私の表情をチラリと確認するサンジ。私はサンジと視線を合わせると、ニコっと笑ってみせる。
「ねぇ、サンジ」
これは本当かしら、と私が差し出したのは自身のスマートフォンだ。液晶画面にはウソップとのメッセージでのやり取りが表示されている。サンジはメッセージを見る前に相手の名前を確認すると小さく舌打ちを溢す。あの長ッ鼻と顔を顰めるサンジの頭をぺちりと叩けば、サンジの意識はメッセージに向く。だが、サンジはこのメッセージのどこに問題があるのか分からないといった表情で首を傾げる。
「普段のおれの様子だね?」
あ、とサンジは目を輝かせて手のひらに拳をポンと当てる。
「もしかして、君が見てねェ時のおれを知りてェって話かな!?それなら、ウソップじゃなくておれに言えばいいのに」
都合のいい解釈をしているサンジはそう言って、デレデレとした表情で私を見上げる。サンジの瞳の中に浮かぶハートには悪いが、今はそういう話をしているわけではない。
「じゃなくて!」
「違ェの?」
「私がいないところで私の話をしまくって威嚇するから迷惑ですってクレーム」
サンジの顔の前に勢い良く、スマートフォンの画面を突き出す。外で私の話をされるのは別にいい、他の女の話をされるよりはマシだ。それにサンジにするなと言ったって、分かりやすい態度と表情で彼女がいる事はバレてしまうだろう。だが、威嚇は話が違う。それに私からしたら私をサンジづてにしか知らない相手に威嚇をする理由が分からない。
「だって、おれ同担拒否だもん」
「同担拒否……?」
「ナマエちゃんを否定されるのは勿論嫌だけど、可愛いっておれ以外が褒めるのも気に食わねェ」
なのに、あいつらさ、ナマエちゃんのこと可愛いっつーからさ、と不貞腐れた子供のような顔をして不満を表に出すサンジ。
「でも、会った事ないわよ?」
「おれが写真を見せて可愛すぎねェか?って聞いたら可愛いって……」
理不尽極まりないサンジの主張に私は痛む頭を押さえる。これではウソップからクレームが来るのも仕方がない。
「……呆れちまった?」
「ちょっとだけ」
「……君のこと見せびらかしてェ気持ちと隠してェ気持ちがごちゃごちゃに絡まって厄介な事になってる自覚はあるよ」
でも、君に好意を持つ野郎だけは断じて許せねェ、と火花を上げようとするサンジの頬に手を伸ばして、こちらを向かせる。段々、そのぶすくれたサンジの顔さえ可愛く見えてくる。
「人はそんな簡単に好きにならないわよ」
「君は魅力的だから分かんねェよ?」
「だって、あなたしか見ていない女に好意を抱いたってつまらないでしょ?」
私の視線はいつだってサンジを追っている、他を見る余地なんてない。そんな相手に好意を持ったって虚しいだけだ。私だったら、そんな恋愛に手を出すような真似はしない。
「おれの彼女は口が上手くて困っちまう」
「あなたの達者な口には負けるわ」
「っ、くく、おれが上手いのは口説き文句くらいだよ」
そう言って、サンジは正座していた足を崩すと私の腕を自身の方に引く。バランスを崩した私を受け止めると自身の膝に乗せるサンジ。
「だから、下手な口説き文句に乗っちゃ駄目だよ」
「ふふ、例えば?」
サンジは胡散臭い笑みを浮かべて私をお姉さんと呼ぶ。そして、どこぞのナンパ男のような台詞を吐きながら私の手に触れる。可愛いけど男はいるの、と。
「同担拒否の嫉妬深い彼氏がいるから間に合っているわ」
「ふーん、ラブラブなの?」
「あなたの入る隙間が無いくらいにはね」
そう口にすれば、押し倒すような勢いで抱き着いてくるサンジ。
「これで不安は無くなったかしら」
「……それとこれは別っつーか、余計に君を独り占めしたくなった」
ナマエちゃんはおれの、とわざわざ当たり前の事を口にするサンジの背中に腕を回しながら私は片手でスマートフォンを操作する。そして、メッセージアプリを開くと一番上にあるウソップの名前をタップし、謝罪を打ち込む。これからもサンジの手綱は任せた、と最後に付け足せば、すぐに抗議のメッセージが届く。だが、私にはこの困った彼氏を甘やかす術しか持ち合わせていなかった。