短編3
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「(悪くねェから困ってんだよなァ……)」
サンジはどちらかと言えば、恋人に甘えるよりも恋人を甘やかしたい派だ。それに愛される恋愛よりも己の矢印が常に先行するような恋愛の方が性に合っている。なのに、今回の恋愛は今までのそれとは少し違った。サンジが矢印を向けたら彼女からもしっかりお返しが返ってくるのだ。彼女の前ではどうにか平然を装って動揺を隠しているが、相手からの慣れない供給や甘やかしにそろそろ情けないサンジのボロが出てしまいそうだ。
「サンジはいい子ね」
まるで在りし日の母親のようにサンジのブロンドをくしゃりと撫で回した彼女の年齢はサンジとさほど変わりない。それに仲間達の間ではまだまだ若造の方だ。この行為は決して、サンジを子供扱いしているわけではない。
「君だっていい子だよ。勿論、おれのいい人でもあるけど」
最初はサンジだってスマートにそう返していた。おまけでキスの一つでもすれば彼女は照れたような笑みを浮かべてサンジに抱き着いてきた。だが、今ではキスする隙すら与えてくれない彼女に降参だと両手を上げる始末だ。
「レディ、もう大丈夫だよ」
上手い言葉が出ないサンジは彼女にとりあえず優しくストップを掛ける。もう、これ以上甘やかされてもサンジには与えられるものがない。唯一与えられるとしたら食後のデザートが予算の範囲内で豪華になるだけだ。ムードも色気もないな、とサンジは彼女にバレないように顔を顰めた。
「まだ足りないわ」
「甘やかしても何も出ねェよ」
「ふふ、あなたがいるじゃない」
彼女の言葉に深い溜め息をついたサンジは彼女の首に緩く腕を回し、彼女の肩に額を当てる形で凭れ掛かる。
「人誑しって君みてェなのを言うんだろうな」
「あら、あなただってそうじゃない」
「おれはナマエちゃんの事しか誑してませーん」
「こら、確信犯」
悪びれもなく、そう口にするサンジ。女性に対しては平等、特別扱いなんてされないと思い込んでいた付き合いたての頃を思い出して彼女はおかしそうに笑った。彼女の肩に顔を埋めていたサンジは顔を上げて、視線を合わせる。
「可愛い顔してどうしたの、レディ」
己のペースを取り戻したのかサンジは意地の悪い顔をして彼女にそう問い掛ける。こうやって普段からすぐに自分のペースに持っていってしまうサンジに彼女は唇を尖らせる。
「なぁに、キスのおねだりかい?」
「したいのはあなたじゃない?」
そうかもね、とサンジはさらりと答えると彼女の唇を攫っていく。薄付きのピンクがサンジの唇にも移り、テラテラと光る。キスの合間に彼女の唇から溢れる途切れ途切れの自身の名前に彼女への愛しさが積み上がっていくのをサンジは感じた。好きと伝えた日から一つ一つと積み上げてきた彼女への愛しさは見上げても先が見えず、日に日に背を伸ばし天を越えていくようだ。
「ふふ、今日のあなたは悪い子ね」
「へェ、それならさ、悪い子続行といきますか」
そう言ってサンジは彼女の華奢な体をゆっくりと押し倒し、先程よりも少しだけ乱暴な口付けを彼女に寄越すのだった。