短編3
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サンジはこの城を気に入っている。角部屋の2LDKは近隣住民の騒音に悩まされる事もなく、近くには大型スーパーやコンビニがあり不自由な思いをする事もない。駅も丁度いい場所に立っている為、急かされて家を出る必要もない。この城はサンジが求める条件を全てクリアした物件なのだ。だが、一つだけ不満を挙げるとするならば自身の恋人の事だ。彼女との同棲の為に借りた城は越して来てから数ヶ月が経とうとしている。部屋には愛着が湧いてきた、それにキッチンだってサンジが使いやすいように器具が並び文句の付け所がないキッチンが出来上がった。なのに、彼女だけが部屋のどこを探してもいないのだ。別に破局したわけではない、それに悲恋を歌ったラブソングのように彼女が亡くなってしまったわけでもない。彼女はちゃんといる、それに週の二日は必ず此処に来る。二人で選んだ寝室のベッドで眠り、サンジがカスタムしたキッチンで料理をする事だってある。
「……なァ、いつ越してくんの」
彼女はサンジが作った手料理に舌鼓を打ちながら、何十回目となるサンジの質問に何十回目の曖昧な返事を寄越す。その曖昧な返事に下唇を突き出して不満を訴えてくるサンジの躱し方にも最近は慣れてきた彼女。
「……そんなにおれと住むの嫌かい?」
なら、最初から断ってくれれば良かったのに、とサンジは数ヶ月目にして初めて弱音に近い本音を吐いた。
「あー……悪い、ちょっと外で頭冷やしてくるね」
食卓にはまだ食べ掛けの皿が残っている、普段のサンジだったら食事中に立ち上がったりはしない。それだけサンジを悲しませてしまったのか、と彼女は今更ながらに気付く。
「待って……っ、ちゃんと話すから、行かないで」
彼女は音を立てて勢い良く椅子から立ち上がるとサンジのシャツの裾を掴む。彼女の手をゆっくりとシャツから剥がすとサンジは再度、椅子に座り直す。怒っているのか、悲しんでいるのか、どっちとも取れる表情でサンジはそこにいる。彼女はサンジの正面の椅子に座り直すと同棲を渋っている理由をゆっくりと口にする。
「同棲したい気持ちは前と変わらないわ。でも、前みたいに手放しで喜べるわけでもないの」
「……結局したくねェって事だろ」
「あなたをもっと好きになっちゃったから、暮らせないの!」
太腿の上で手をぎゅっと握り、声を張り上げる彼女。まさかの理由にサンジは怒りを忘れて口をぽかんと半開きにしている。
「だって、毎日一緒にいたら変な所も嫌な所も知る事になるでしょ。レディ全肯定のサンジだって私のこと嫌いになっちゃうかもしれないじゃない」
「反対はあってもそれはねェ」
「私だってないわよ」
彼女の話すありえないタラレバに苦笑を浮かべるサンジ。それに実際、同棲をしてみなければ上手くいくか、いかないかなんて分からない。
「なら、お試しからっつーのはどうだい?」
今も週の何回かは此処に来てるし、お試しっちゃお試しみてェだけど、とサンジは彼女に一つ提案をする。
「一ヶ月」
「……そんなに?」
「おれは一生でもいいんだけどなァ」
「一ヶ月よろしくお願いします」
彼女の食い気味な反応に喉を鳴らして笑うサンジ。そして、自身の右手を彼女の前に差し出すと器用にウインクを一つ寄越す。
「延長ならいつでもお申し付けを、レディ」