短編3
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ここ数日、不自然な程にサンジに避けられている。皆で集まっている時は気にならないが二人っきりになった途端、サンジは風のように消えてしまう。最近の出来事を振り返ってみても避けられるような事はしていない、それに無意識に地雷を踏んでしまったのなら謝りたい。言葉は難しい、伝え方次第で言葉の受け取り方が全く変わってしまう事がある。普段から伝え方には注意しているが、もしかしてという事もある。どう聞き出すのが正解か、と私は少し離れた場所からサンジのいるキッチンの扉を見つめる。
「……逃げられちゃうかしら」
こうもあからさまに避けられてしまうと聞くタイミングすら難しい。逃げないタイミングを探して、逃げ道を塞ぐのは簡単な事ではない。相手がすばしっこいなら尚更だ。私は夕飯の準備の最中である日暮れを狙う事にした、準備の最中だったらサンジは逃げられない。火をつけたまま、フライパンや鍋を放置するような真似はしない筈だ。
―――――――
キッチンの扉の前で私は己を鼓舞するように頬をパチンと叩いた。大丈夫と自分自身に言い聞かせて、扉に手を掛ける。
「ナマエちゃん……」
「今、お話いいかしら?」
既に盛り付けの段階に入っているサンジは皿に美しく料理を並べていた。それを見た私は少しだけ出遅れてしまった事を察する。サンジはこちらに向けていた視線を下げると皿に特製ソースを垂らす。
「……後でもいいかい」
「逃げずに聞いてくれるならいいわよ」
逃げている自覚があるのか、サンジは私が発した逃げという言葉に手を止めた。
「逃げてなんて、」
「避けてるでしょ、私の事」
なるべくサンジの気分を害してしまわないように言葉を探す。だが、のらりくらりと誤魔化されてしまうのは避けたい。そう考えれば考える程、どうやっても直球な言い方になってしまう。
「サンジに嫌な思いをさせたのなら謝りたいの」
あなたに避けられるとどうしていいか分からない、とへらりと笑う私にサンジは傷付いたような表情を浮かべる。きっと、サンジは私に意地悪をしたかったわけでも無いのだろう。
「あの、さ……おれ、変なんだ」
「変?」
「今までは君といても他のレディと接した時みてェに幸せだったんだ。でも、最近はおかしいんだ……君といるとドキドキが勝って、心臓がぐわああって熱くなる。それで頭の中が君でいっぱいになって、ふわふわするんだ」
真っ赤な顔で自身のシャツの胸元を掴むサンジ。
「……これ以上、おかしくなるのが怖ェ」
「サンジはそれが何だか気付いているの?」
私の問い掛けにサンジはこくりと頷き、私を正面から見つめる。
「おれの好きに巻き込んですまねェ、○○ちゃん」
すぐにとは言わねェが、なるべく早くこの気持ちを殺すから、とサンジは口にする。どうやら、サンジは自身の好意を不必要なものと判断したらしい。
「殺すなら私に頂戴」
「……貰ってどうするんだい」
「逃げるあなたを追い掛けるのよ」
避けられて嫌だと感じたのは私がこの男に好意を持っているからだ。そして、傷付けていたらどうしようと焦ったのは嫌われたくなかったからだ。でも、蓋を開けてみれば、そこには同じ気持ちがあった。
「最近ね、私もおかしいの」
サンジの手を掴んで、自身の胸に持っていく。無意識にボリュームを上げた心音はおかしな音を立てながら、サンジに向かって鳴り響いた。