短編3
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こういうのはレディがなってこそだろ、とサンジは血の涙を流す。野郎に猫耳が生えた所で誰に需要があるんだと声高に言いたい。床にはサンジの悔し涙で出来た水溜りが出来ている、その横に力無く落ちているのはサンジのスラックスから飛び出た黄色く長い尻尾だ。頭には揃いの三角耳が二つ、ピョコピョコと動いている。
「不思議な事はもうある程度、経験したと思っていたけど」
彼女はどこか浮き足立った様子で蹲っているサンジに近付く。そして、尻尾を踏まないようにサンジの隣に座り込むと普段と変わり映えのしないサンジの顎下を撫でる。猫のような柔らかい毛ではなく、しっかりとした顎髭が彼女の指先にチクチクと当たる。
「体毛は人間なのね。でも、反応は猫寄りかしら」
自身の意思とは違い、口から溢れ落ちるサンジの人間らしくない声。愛らしい高音ではないが、ニャンと確かに鳴いたのだ。サンジは自身の口から出た鳴き声に信じられないという顔をして、自身の口を両手で覆うように隠す。彼女の方を見ながら、違う、これは無意識で、と言い訳のように否定を繰り返すサンジに彼女は表情筋を最大限緩める。
「可愛い」
「……いや、気味悪ィだろ。野郎に猫耳なんて」
「サンジはどちらかと言えば、犬っぽいものね」
「ナマエちゃん、おれの話聞いてる?」
会話しているように見えて上手く噛み合っていない会話。現在の彼女はサンジの変化に興味津々といった様子でサンジの訴えなんて何処吹く風だ。
「ん?」
ここで強く拒否出来たらいいのだが、サンジにそんな事が出来る筈がない。それに今のサンジは中身も少し猫に寄っているのか、撫でられると無意識に尻尾がゆらゆらと揺れてしまう。口では嫌と言いながらも身体は素直だ。サンジは一日で戻れるという優秀な船医の言葉を信じて、この屈辱的な姿で彼女の欲望に塗れた手を受け入れるのだった。
「……いいよ、好きなだけ触って」
どーぞ、と両手を広げれば彼女はその言葉通り遠慮なくサンジに触れる。普段からこうやって積極的に触ってくれればいいのに、そう思いながらサンジは彼女のあたたかい手のひらに頬を擦り寄せる。
甘やかされていると思えば、今の状態だって悪くない。恋人扱いというよりペット扱いに近い事には目を瞑り、サンジは遠慮なく甘える事にした。たまに彼女の反応を見ては、下手な猫の鳴き真似をしてニャーニャーと鳴くサンジ。
「っ、待って」
「んー?」
彼女の膝にゴロンと寝転んでいたサンジは彼女の動揺した声に不思議そうな顔をする。何もアクションを起こしていないタイミングで彼女は今日一の動揺を見せる。
「可愛い舌が出てるじゃない」
彼女の細い指がサンジの舌先に少しだけ触れる。
「猫はリラックスしていると舌をしまい忘れてしまうのよ」
あなたもそうなのかしら、と彼女はサンジの普段よりもザラついた舌に触れる、感触は猫の舌と変わらない。
「恋人の前だもん」
「ふふ、恋人が猫だなんて小説みたい」
暢気に笑みを浮かべる彼女の指をザラついた舌でべろりと舐めるサンジ。彼女は突然の事に情けない声をあげる。
「っ、くく、いい反応」
「……吃驚するじゃない」
「今のおれは気まぐれな猫だからね」
恋人にその気にされてもそれぐらいの反撃しか出来ねェの、とわざとらしく残念がった表情を浮かべるサンジ。その、脳内には明日の計画が着々と練られている。従順な猫でいるのはあと一日の辛抱だと言わんばかりにサンジは口元に三日月を描いた。