短編3
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色の名前ではなく、男性の名前が付けられたな口紅。デザイナーが影響を受けた男性、或いは親しい関係にある男性。そして、尊敬する男性。そんなデザイナーの遊び心に惹かれた私はカラー展開が豊富なその口紅をコレクションしている。
『デート相手をひとりに決めなきゃいけない理由なんてないだろう』
これはデザイナーの言葉だが、自身の恋人の顔が浮かんでしまうのは仕方の無い事だろう。サンジにはプレイボーイのような台詞がよく似合うのだ。私はドレッサーの引き出しを開けて、グラデーションを描くように並んでいる口紅に手を伸ばす。そこから一本を取り出すと自身の大した特徴もない唇に彩りを乗せる。普段はジェームズ、サンジと島に降りる時はアランかルチアーノ。そして時々、数人と浮気をするのだ。サンジに聞かれたら誤解されてしまいそうだが、このコレクションの事は既に報告済みだ。
先に支度を済ませたサンジはナミやロビンのお許しを貰い、女部屋で私の支度が終わるのを待っている。ベッドに腰掛けて、私の化粧の工程をじっくりと鏡越しに見つめてくるサンジ。
「ふふ、詐欺メイク」
「元の造りが美しいから化粧が映えるんだよ」
恥ずかしげもなく、そんな事を平然と言えるサンジに頬の赤みが増した。チークは控えめにした筈なのにこれでは控えた意味がない。
「サンジといたらコンプレックス知らずね」
「レディのコンプレックスはおれの目にはチャームポイントに見える」
そう言って、サンジはベッドから立ち上がると私の背後に立つ。そして、今塗ったばかりの口紅を剥がすように唇を重ねてくる。
「今日の野郎はどいつだい?」
「野郎って何よ」
「君の唇に居座る男の名前だよ」
薄っすらと自身の唇に移った赤を器用に舌で拭うサンジ。私はそんなサンジの首元に腕を回して、違う男の名前を呼ぶ。
「今日はね、アランよ」
「恋人に腕を回して違う男の名前を呼ぶなんて悪ィ子だね」
ただの口紅よ、と笑う私にサンジは少しだけ意地の悪い笑みを向ける。
「アランじゃなくて、サンジなんてどう?」
私が有無を言う前にサンジは自身の唇で知らない男の名が付いた口紅を剥がして、その上から自身の色を上書きしていく。実際は色なんてものは付いていない。だが、私の唇はもっと、もっと、とサンジに色を乞うのだ。
「フッ、レディは欲しがりなんだから」
色を乞う私と色に酔うサンジ。デート相手をひとりに決めなきゃいけない理由なんてないだろうというデザイナーの言葉に対して、私の答えは最初から決まっている。
「欲しいのは一人だけよ」
テスターと本命は違う、日常に色を付けて欲しいのはいつだってただ一人だけなのだ。